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2015.04.02

「家がつむぐ物語―家糸プロジェクトのはじまり」02

 

家糸プロジェクト
『家がつむぐ物語―家糸プロジェクトのはじまり』

INTRODUCTION

ゆとりある街並みと豊かな緑。閑静な住宅街として知られる田園調布のまちで、ひときわ目を惹く洋館。一度見たらきっと忘れないこのお家は、実はライフスタイルプロデューサーとして活躍する、村上萌さんのお祖母様のお家でした。
木造モルタル塗り、2階建て。美しく趣向を凝らしたたくさんの窓と、凝った屋根の形。90年余りもの歴史を持ち、2000年には登録有形文化財にも登録された貴重な建物。そして何より萌さんたち家族の思い出が詰まった大切な家ですが、お祖母様が2014年春に亡くなり、残念ながら土地ごと手放さざるを得なくなってしまいました。

「たとえ家がなくなっても、この家に刻まれた記憶を未来へつないでいきたい」と考えた萌さんは、リビタに相談。一夜限りの建物見学会の開催と、扉を中心とした部材を取り外し、家の物語とともにリノベーションを通じた新たな場づくりへと受け継いでいくことになりました。
それが、2014年冬にスタートした「家糸(いえいと)プロジェクト」です。

11月末日。お祖母様が亡くなってから「まだ、おたまひとつ片付けられていない」というこの家で、萌さん、旦那様、そしてこの家で生まれ育った叔母様が、この家の物語を聞かせてくれました。

 目次
INTRODUCTION
Scene.1:ある家族の物語
Scene.2:大好きな「ばあば」の記憶
Scene.3:物語を宿した部材たち
Scene.4:「家糸」をつむぐ

 

すべてを教えてくれた「庭」

親戚みんなが自然と集まる田園調布の家。その中心的存在だったのが、萌さんの大好きなお祖母様―「ばあば」でした。ユーモアがあって、チャーミングで、いくつになっても女性であることを忘れない。そんなばあばが昨年、86歳で亡くなった時に遺したものは、お祖父様から昔もらったラブレター、ずっと愛用していたつげの櫛、そして叔母様(お祖母様にとっては長女)が編んだマフラー。そして、この家でした。
この家には、萌さんにとって「すべてがここにある」と言うほど、たくさんの思い出が刻まれています。特に萌さんに大きな影響を及ぼしたのが、一年中さまざまな草木や花であふれる庭でした。

 「この庭で、季節や自然のことをたくさん教えてもらいました。おかげで季節ごとに咲く花の名前とか、食べられる花にも詳しいんです。たとえば、朝ごはんのサンドイッチにマスタードがなければ、庭に咲いているナスタチウムの花が代わりになることとか」

夏はプールで水遊び。ビニールプールではしゃぐ子どもたちのそばで、大人たちまで水着になって思い思いに過ごしたこと。冬は、ばあばが好きだった焚き火をしたこと。その季節に一番美しい花を眺めながら、外でごはんを食べたこと。
子供の頃に身につけた季節や自然を楽しむ力は、今も萌さんの毎日の中に生きています。たとえどこに住んでも、その土地ごとの自然に親しむことができるし、家に小さなベランダしかなくても、天気のいい日には椅子を出して朝ごはんを食べる。だからこそ夫の仕事で各地を転々としても、
「(住む地域は)本当にどこでもいいんです。それによって何かが変わるとも思っていないし、いつも“この場所で何ができるかな”と思っているので」

 

 

社名にもなった「Garten(ガルテン)」

そして幼い萌さんの「秘密基地」もまた、この庭にありました。基地では敷物を敷いておにぎりを食べたり、採ってきた木の実で遊んだり。あじさいの下に基地をつくろうとした時は、先に住んでいたガマガエルに遠慮してそっと別の場所へ引っ越したこともありました。

「庭でハーブを摘んだり、ブーケを作ったり。そこにあるもので工夫したり、何かを企んだりすることがすごく楽しかったんです。そういう気持ちで仕事ができたらいいなと思って、自分の会社をつくる時にドイツ語で“庭”を意味する『Garten(ガルテン)』と名づけました。私にとってお仕事で企画をつくることは、秘密基地をつくることや、季節やその日のお天気に合わせて料理をつくることと変わらないんです」

この庭で体験したことや感じたこと、ワクワクした気持ち。それが、現在の萌さんのお仕事のルーツにもなっているのです。

 

 

祖父から受け継いだ「一期一会」の教え

このお家で、萌さんが忘れられないという風景があります。萌さんたち一家が横浜へ帰る時、いつも玄関の扉の前で見送ってくれた祖父母の姿です。
「浴衣姿の大柄な祖父と、エプロンをかけた小ちゃな祖母が並んで。私たちの車が一番最初の曲がり角を曲がって見えなくなるまで、絶対に手を振り続けてくれていたんです」


そこにあるのは、お祖父様の教えである「一期一会」の気持ち。今日この日が楽しいのは当たり前のことではないし、もう二度と来ないかもしれない。だからこそ何でもない日でも特別な日でも、大切な人とのかけがえのない時間を精一杯楽しむ。

「朝、仕事に出かける夫をお見送りするのですが、自分も忙しくてついバタンとドアを閉めちゃいそうになる時、この教えを思い出すんです。だめだ!おじいちゃんだったら絶対最後まで見送ってる、って」

できない理由を挙げて諦めてしまうのは簡単です。けれど「一期一会」の気持ちを持って、大切な人と過ごす日常の一瞬一瞬に心を込める。
「家」が建物のことではなく、そこで紡がれていく「物語」や人が共にいる「場所」そのものなのだとしたら、そうした日常の積み重ねの先にこそ、素晴らしい「家」が生まれるのに違いありません。この田園調布の家のように。

「何でもないことで集まれるのって、すごく素敵なことだと思うんです。例えば“もみじがきれいだから集まろう”でもいい。自然は公園に行けばあるし、小さな家でもできる。季節は誰にでも、平等にやってくるから」

 

 

また誰かの秘密基地に

実は萌さんが主宰する、次の週末に取り入れたい理想のライフスタイルを提案するウェブマガジンの名前「NEXT WEEKEND」にも、このお祖父様の教えが息づいています。
昔から「将来の夢」がなく、そのことがコンプレックスだった時代もあったという萌さん。その代わり、やりたいことや会いたい人を思いついたら、ほとんど次の週末には行動を起こしていたといいます。気がつけば、周りの人たちに“夢を叶えていいね”と言われるようになっていました。

「いつかやりたい、と思っていることを次の週末の予定にしてしまおう。人ごとと思わないで、身の回りのことを全部、自分ごとにしよう。そんな意味を込めたのが“NEXT WEEKEND”です」


一期一会の瞬間の積み重ねが、90年余りもの物語へとつながっていく。この家から受け継がれていく建具や窓枠たちは、その先で誰のために、どんな物語を紡ぐのでしょうか。

「また誰かの秘密基地になってくれたらいいな、と思っています」(萌さん)

 

 

 

<プロフィール>

[語り手] 村上萌 |  「NEXTWEEKEND」
“次の週末に取り入れたい”をコンセプトに、今より少し先の理想のライフスタイルを提案。株式会社ガルテンを設立し、ライフスタイルデューサーとしてウェブマガジンNEXTWEEKENDを主宰。

 

[聞き手・執筆] 石神 夏希 | 「場所と物語」
演劇、文筆、コピーライティング、プロモーション企画、リサーチ、地域に根ざしたアートプロジェクトなど、さまざまなジャンルで一貫して「場所」と「物語」を行き来しながら活動。(撮影:菅原康太)

 

 

<この建物で撮影されたショートムービー>

 

・写真 特記ないものは、撮影:井島 健至。

・参考文献 「田園調布 鈴木家住宅 調査報告書」(2014年9月 歴史・フォロ 武蔵野美術大学建築学科同窓会(日月会) 有志の活動)

 

 

目次
INTRODUCTION
Scene.1:ある家族の物語
Scene.2:大好きな「ばあば」の記憶
Scene.3:物語を宿した部材たち
Scene.4:「家糸」をつむぐ

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