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2015.04.09

「家がつむぐ物語―家糸プロジェクトのはじまり」03

 

家糸プロジェクト
『家がつむぐ物語―家糸プロジェクトのはじまり』

INTRODUCTION

ゆとりある街並みと豊かな緑。閑静な住宅街として知られる田園調布のまちで、ひときわ目を惹く洋館。一度見たらきっと忘れないこのお家は、実はライフスタイルプロデューサーとして活躍する、村上萌さんのお祖母様のお家でした。
木造モルタル塗り、2階建て。美しく趣向を凝らしたたくさんの窓と、凝った屋根の形。90年余りもの歴史を持ち、2000年には登録有形文化財にも登録された貴重な建物。そして何より萌さんたち家族の思い出が詰まった大切な家ですが、お祖母様が2014年春に亡くなり、残念ながら土地ごと手放さざるを得なくなってしまいました。

「たとえ家がなくなっても、この家に刻まれた記憶を未来へつないでいきたい」と考えた萌さんは、リビタに相談。一夜限りの建物見学会の開催と、扉を中心とした部材を取り外し、家の物語とともにリノベーションを通じた新たな場づくりへと受け継いでいくことになりました。
それが、2014年冬にスタートした「家糸(いえいと)プロジェクト」です。

11月末日。お祖母様が亡くなってから「まだ、おたまひとつ片付けられていない」というこの家で、萌さん、旦那様、そしてこの家で生まれ育った叔母様が、この家の物語を聞かせてくれました。

 目次
INTRODUCTION
Scene.1:ある家族の物語
Scene.2:大好きな「ばあば」の記憶
Scene.3:物語を宿した部材たち
Scene.4:「家糸」をつむぐ

 

ずっと変わらない風景

「この家の中は全部知り尽くしている」という萌さんに、思い出深い場所を案内してもらいました。まずは玄関を入ってすぐ右手の階段から。

「階段の踊場は子どものたまり場でした。柵の間から手を伸ばせば天井に手が届くので、玄関を通る人の頭上に色んな物を吊るしたりしてお祭りごっこをしたり、商売ごっこをしたり」

階段の後ろにある、ミルク色と淡いブルーのコントラストが美しいトイレも、萌さんのお気に入りです。廊下を奥に進んで右手に入れば、そこは外国の田舎のおうちに来たような可愛らしいキッチン。昔からここにある、Magic Chefのオーブン付きコンロ。アメリカのホームドラマに出てきそうな黄色い食器棚。

「いつも大人が4人くらい並んで、ここで料理をしていたのを覚えています。私たち子どもは後ろから見ていたり、味見をしたり。当時と全然変わらないですね」(萌さん)

これらキッチンの部材の一部は、『commun246(元246 COMMON)』に萌さんがオープンしたサンドイッチ屋さん『GARTEN』に受け継がれていくことが決まっています。

キッチンからつながるダイニングには、「いつも食べ物でいっぱいだった」大きなテーブル。そして左手の壁には立派な扉が。この扉を開くとダイニングと玄関ホールがつながり、まるで教会のバージンロードのような空間が現れます。

「従姉妹の結婚式や祖父のお葬式など、家族の大切な行事やイベントはここで。ただ祖母が亡くなった時は、本人がお葬式を嫌がっていたのでガーデンパーティにしました」

玄関を入って左手には、暖炉のあるサロンのようなお部屋が。ここは全自動麻雀卓があり、親戚が集まるたびみんなで卓を囲んでいた通称「麻雀部屋」。特にお祖母様は「めちゃめちゃ強かった」そうで、結婚前の旦那さまもよくお付き合いしたのだとか。おかげで家族の皆さんとも打ち解けられたという、思い出の場所でした。

 

 

ひとつひとつのキズに物語が刻まれている

2階は家族のプライベートなお部屋。庭に向かって飛び出した出窓のような不思議な空間は、叔母さまや萌さんのお母様が子供の頃、勉強机を置いていたところ。装飾の美しい窓枠ごしには、庭が見渡せます。

「勉強するふりをして、いつも庭を眺めて過ごしていました。雪が降ると、とってもきれいで」(叔母様)

お隣の寝室には、お祖母様が「いつもきれいに身支度をしていた」という鏡台と、秘密の小部屋のような大きな納戸。この家に集まる子どもたちにとっては格好の遊び場で、叔母さまの“秘密基地”だったこともありました。

「山小屋のようにランタンを吊るしたら、寝ている間に天井が焦げちゃって(笑)。今でも焦げ跡が残っているはずです」(叔母様)

一般的にはこうしたキズは、住宅の価値を下げるものと思われています。けれどこうして見れば、キズひとつひとつにこそ記憶が、時間が、物語が刻まれていることがわかります。

手仕事のもの、そしていつの時代も手に入れることのできる本物の素材(木や鉄、ガラス、石など)は、時代を経てもメンテナンスをしながら大切に使い続けることができ、時間の経過とともに深み、ツヤ、味わいを増していきます。それは、時間が価値に変わる瞬間。効率化が重視される社会で大量生産された工業製品では、なかなか真似のできないことです。

素材にとどまらず、家そのものにも同じことが言えます。かつて日本の住まいは大工が建てることが当たり前で、住み始めてからも棟梁が定期的に巡回をし、不具合があればその場で手入れをしていました。住む人と建てる人が身近だった時代、住まい手もまた自分の家についての知識を自然と身につけ、自ら手を入れることも決して特別なことではありませんでした。


一般的に、築年数の経った木造の建物は、耐久性などが心配されるもの。ですが木は伐採後ゆるやかに強度を増し、数百年の間、その強度はほとんど変わることがないとも言われます。これから住まいを選ぶ皆さんに、古い建物だからこそ手に入れられる、時間をかけて育まれた価値を知っていただくこと。それが、リビタが家糸プロジェクトに取り組む意味でもあります。

 

 

 

<プロフィール>

[語り手] 村上萌 |  「NEXTWEEKEND」
“次の週末に取り入れたい”をコンセプトに、今より少し先の理想のライフスタイルを提案。株式会社ガルテンを設立し、ライフスタイルデューサーとしてウェブマガジンNEXTWEEKENDを主宰。

 

[聞き手・執筆] 石神 夏希 | 「場所と物語」
演劇、文筆、コピーライティング、プロモーション企画、リサーチ、地域に根ざしたアートプロジェクトなど、さまざまなジャンルで一貫して「場所」と「物語」を行き来しながら活動。(撮影:菅原康太)

<この建物で撮影されたショートムービー>

 

 

・写真 特記ないものは、撮影:井島 健至。

・参考文献 「田園調布 鈴木家住宅 調査報告書」(2014年9月 歴史・フォロ 武蔵野美術大学建築学科同窓会(日月会) 有志の活動)

 

目次
INTRODUCTION
Scene.1:ある家族の物語
Scene.2:大好きな「ばあば」の記憶
Scene.3:物語を宿した部材たち
Scene.4:「家糸」をつむぐ

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