パートナー

馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」02

馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」02

日本で最も多い住宅ストックにもかかわらず、「築20年で価値がゼロになる」と言われる木造一戸建て。
でも、その評価は本当に正しいのだろうか?
いや、リノベーションによってその可能性を引き出し、
価値を高めることができる木造一戸建てもたくさんあるはず。
リビタの戸建てリノベーション事業は、
そんな木造一戸建ての可能性を多くのひとに知ってほしいという思いから始まりました。

5月28日、リビタの戸建てリノベーション事業のプレス発表の場で行ったトークセッション『住まいを編集する』。
デザインプロデューサーとして多方面で活躍する紫牟田伸子氏をモデレーターに迎え、
『東京 R 不動産』ディレクターであり、建築家としても活躍するOpen Aの馬場正尊氏、
そして弊社リビタ常務取締役・内山博文によるリノベーション談義は、
木造一戸建ての可能性、住宅ストックの流通、自立する家づくり、そして街づくりのことと、
話題は多岐に及び、大いに盛り上がりました。

このトークセッションの内容を全4回にわたってご紹介する第2回です。

Nobuko Shimuta

編集家、デザインプロデューサー。紫牟田伸子事務所SJ代表。美術出版社『BT/美術手帖』『デザインの現場』副編集長を務めたのち、日本デザインセンターにて「ものごとの編集」を軸に、商品企画、コミュニケーション・プランニング/デザイン・プランニング/デザイン・プロデュースなど、社会や地域に適切に作用することを目指したデザイン・マネジメントを行う。2011年8月円満退社。同年9月より個人事務所開設。主な共著に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』(宣伝会議)など。

Masataka Baba

『東京R不動産』ディレクター、Open A代表、東北芸術工科大学准教授、建築家。1968年 佐賀県生まれ。1994年 早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2002年 Open Aを設立。都市の空地を発見するサイト『東京R不動産』を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。

Hirofumi Uchiyama

株式会社リビタ 常務取締役。1968年 愛知県生まれ。大手デベロッパーを経て、1996年 株式会社都市デザインシステムに入社。コーポラティブ事業の立ち上げや不動産活用コンサルティングなどの業務でコーディネイター、取締役、執行役員を務める。2005年 株式会社リビタ代表取締役。2009年 同社常務取締役 事業統括本部長、社団法人リノベーション住宅推進協議会副会長に就任。2013年7月より社団法人リノベーション住宅推進協議会会長。

Scene2「中古戸建て流通の変革と、“ 住宅リテラシー” の醸成」

港区の「MFY サロン」で行われたトークセッション。話は戸建てリノベーションのデザインの可能性へ。

紫牟田 :
スケルトンから、家という形に戻し直していく行程は、
今回のリビタの戸建てリノベーションでも大きなポイントだと思うんですが、
一旦スケルトンにしたあとに、どんな風にデザインを考えていくのでしょうか?

(トークセッション前に行われた)リビタの戸建てリノベーション事業の解説にあったように、
基本的には、一室空間にして、住まい手が手を加えていける余白を設けたデザインに・・・
という方針はあると思うんですが、
それでもその家自体の雰囲気や、建っている方角とか、
そういう条件との兼ね合いを考えながら、1物件ずつ考えていくのですか?

内山 :
そうですね。まだ、「練馬石神井台の家」と、
現在リノベーション進行中の「世田谷野毛の家」の2件ですが、
本当、手探りでデザインしている状態で。まあ、それがリノベーションの面白さですが(笑)

図面をいくら眺めても、想像はするんですが、何の答えも出なくて。
やはり現場に行って、みんなで、ああでもないこうでもないって話をしている方がですね、
「もっとこうしたら」「ああしたらいいんじゃないか」って、
そういう気づきがどんどん出てくるんです。
やはり、その現場から、その家の中から外を眺めてみて、
ここに何があったら気持ちいいのかということを考えていくやり方や行程は、
実はリノベーションの一番面白いところなのかもしれないなと思っています。

いわば私のような建築の知識がない人間でも、「この壁は壊せるよね」っていうようなことが、
木造住宅の場合は簡単にわかるので、
一般の方でも、そういうことへの理解が今後深まるんじゃないかと、
そういうことが容易にできるようになっていくのかもしれないなと考えています。

紫牟田 :
たしかに、そうかもしれませんね。

内山 :
そんな感じで、侃々諤々というよりは、和気藹々と、担当たちと一緒に考えてますね。

紫牟田 :
スケルトン状態は、住まいに対するリテラシーを育む上で、非常に良い状態なんでしょうね。

馬場 :
僕は新築もやりますから、新築の場合は、まず更地を見るわけですね。
更地の状態から、かなり想像力を働かせないといけない。
あと、専門的なことを理解する訓練も必要になります。

紫牟田 :
そうなんです。それが、難しいんですよね……。

馬場 :
だけど、木造のスケルトン状態では、空間のスケールがはっきりわかるから。

紫牟田 :
身体的に、からだの感覚で。

馬場 :
そう。高さも、幅も、もうわかるので、
「ここはこうしよう」って考えるきっかけが、ごろごろしているわけです。

紫牟田 :
拠り所があるということですね、からだを置くための。

リビタの戸建てリノベーション第2弾「世田谷野毛の家」のスケルトン化後の空間で行われた見学会の様子。

馬場 :
そうです。そういう意味ではですね、
僕は、新築よりもリノベーションの方が、自由かもしれないと思ってるんですね。

新築だと、建築家に頼んで、委ねて、草案を持ってきてもらって、模型などで検証して、
こうでもないああでもないという風にやるか、
住宅メーカーの住宅商品を、「これください」っていうやり方しか、ないわけじゃないですか。
それが、今までの主な選択肢だったわけですね。

スケルトン状態で自分に手渡されると、「ここは僕の領域」「ここはママの領域」という風に、
空間をどう使うかを考えられるきっかけがたくさんあるんですね。
プロではない一般の人でも、そこから想像力を働かせることが十分に可能で、
その翻訳家として、デザイナーや建築家がいればいい、という形になってくるんじゃないかなと。

今回のリビタの戸建てリノベーション事業では、
全体を統括する設計者と、間取りやインテリアといったソフトを想像する設計者とが居て、
インフィルの品質を保証するという役割分担が、とてもいい形だと思いました。
そうした住まいの提案の仕方は、住まい手が家づくり自体にコミットすることができる
新しいルートをつくっているんじゃないかなと、
そんなことを思いながらプロジェクト説明を聞いていましたね。

紫牟田 :
そうですよね。
私は、本当に実感としてそれがあるんですよね。

まあ、鉄筋コンクリート造だけど、リノベーションした自宅は本当に古家で、
前の人が住んでいたままの状態で、ボロボロになっていて、蜘蛛の巣がいっぱいあって……。
まさに廃屋、といった状態の建物に入ったときに、
「ここはどうしよう」「これはこうしよう」と、
本当にリアルに、知識はないけれどわかったんですよね。
すでに間取りがあって、空間があって、それが拠り所になったから、
そこでの自分の住まい方のイメージを、容易に考えることができたんです。

なので、今、馬場さんと内山さんが仰った考え方は、すごくよくわかるなと。
土地だけを見ても、本当、なかなかわからないんですよね。

馬場 :
そうなんですよね。

内山 :
その想像をしていく過程って、非常に楽しかったんじゃないですか?
あ、僕が紫牟田さんに逆に質問してしまってはだめでしょうか(笑)

紫牟田 :
いえいえ(笑)むちゃくちゃ楽しかったですね。
実は、今の家に辿り着くまでに、
いろんな家を、もうとにかくありとあらゆる状況の住まいを検討してきていて。
土地だけ見に行ったときもあって、
坂の上の土地で、その見晴らしを活かしてどんな家を建てようかと考えたりもしました。
あとは中古住宅を、本当にたくさん見たんですね。
でも、「ここにどう住もうか」ということを具体的に考えることができたのは、
今住んでいる家だけだったんです。

その家は、非常にシンプルな四角い空間で、それを細かく区切った状態で使われていたんですが、
区切っている壁を取り払ってしまえば、すごく大きな一室空間になるということが、
空間を見たときにわかったんですね。

ほかに見た中古住宅で、リビタの戸建てリノベーションの第2弾である「世田谷野毛の家」のような、
スキップフロアになっている物件も見たんです。
正直、「ここにどう住もうかな」というイメージが全然浮かばなかった。
でも、その物件は売主がとても売りたがっていて、
住み替えしたがっているということはわかったんですよ。
本当に手放したいと思っていることはありありとわかるんだけども、
“ 私たちではこの家を素敵にリノベーションすることができない” と思ったんです。
もう全然イメージができなくて。

だけど先ほど内山さんは、そういう家でも全然大丈夫だと仰っていて、それが可能だとしたら、
自宅を売りたい個人を救うことにもなるんじゃないかと、すごく思ったんですよね。
今回の戸建てリノベーション事業では、そういうこともお考えにあるのですか?

リビタの戸建てリノベーション第2弾「世田谷野毛の家」の既存外観。築26 年、地下1階地上2階建ての住宅。

内山 :
最終的には、できれば我々リビタが買い取ってリノベーションして販売するのではなく、
お客様同士が直接、売買のやりとりができるような市場整備ができたらいいなと考えています。

我々が買うときは、やはり事業として、なるべく安く買わないといけない側面もありますので……。
直接お客様同士が個人間で取引をなされて、自分でリノベーションする前提をつくるというのは、
ある意味、高い取引での流通を成立させることができる可能性が十分にあると思っています。

紫牟田 :
消費者個人としては、一度リビタに買い取ってもらった方が、
素敵な住宅ができる気がしますが・・・。

内山 :
購入者にとっては、そっちの方が安心できるだろうなとは思っています。

紫牟田 :
絶対、安心だと思いますよ。個人と個人でやりとりするよりは。

馬場 :
いや、なんというか、これも大きな社会問題だと思いますが、
今から人口は減っていくじゃないですか。
今回のリビタの戸建てリノベーション事業のターゲットエリアというのは、
いわゆる高級住宅街と呼ばれるところで、
まずそこから実例をつくっていくということも、新しいアプローチだなと思うんですが。

もうちょっと時代を先に倒して、一歩引いた目で見るとですね、
この会場にいらっしゃる方もそうかもしれませんが、
たとえば、親が郊外に住宅を持っている。歳をとって、都心に住み替えしたいと思っている。
介護なんかの問題もあるから。
すると、「郊外のこの家はどうしよう?」という人が、実はたくさん出てくるんじゃないかと。

子どもの側としては、あんな大きな家要らないし、
取り壊して更地にするにしても、「売れるわけがないよなぁ」という考えになりますよね。
郊外の広い土地にバーンっと大きな家を建てて住みたい人は確実にいるでしょうけども、
きっと多くはいない。

そういうときにですね、どうしたらいいのかわからない、
相続についても兄弟姉妹でどう分けたらいいのかわからないといったときの、
家を健全に手放すルートをつくることになるような気がするんですね、
この今回のリビタのプロジェクトは。
それにはもちろん、家を健全に手に入れるルートの方もつくる必要があって、
それが成立して、そのループは生まれるわけです。

僕らは先ほどまで、どちらかというと計画者側の目線で話をしていたんですが、
紫牟田さんのお話を聞いていると、逆側というか、
買う側だけでなく、もっと言うと売る側の目線に立ってみたりすると、
このプロジェクトは、また違う地平が見えてくるなという気がしましたね。

中古戸建てをリノベーションして再販する取り組みは、戸建ての中古流通の活性化を促すと語る馬場氏。

紫牟田 :
そうですねー。

馬場 :
相続に絡んでの問題とか、ありそうですよね、本当に。

紫牟田 :
本当にありそうだなということと、
先ほどのプレス発表後の質疑応答で質問されていた方もいたんですが、
家の記憶みたいなことや、街並の維持や、そういうことにも関係するような気がするんですよ。

やっぱり、自分がその家を売ってしまって、更地になってしまったら、
なにかこうぽっかりと、気持ちに穴が空いてしまうような気がするんです。
エコロジーやサスティナビリティを標榜する今の世の中で、
一般の消費者の中にもそういうことを感じてらっしゃる方が、
数多くいらっしゃるんじゃないかなと。
暮らしてきた家がなくなって、更地になって、
真新しい家がそこに建つことが、いいことなのかどうか……。
そういうことを感じている人も多いと思うんです。

内山 :
私は最近、地方に行くことが増えてきて、先日も北陸に行ってきたんですが、
地域地域の伝統的な建て方でつくられた住宅が並ぶ中に、突然とプレハブ住宅が建っていたりする。
とても景観の良い街並にも関わらず、そういうものが唐突にあると、
なんというか、違和感を感じるんですよね。

今後、日本の地方がもっと活性化していくためには、
こうした景観を観光の資源として大事にしていかなきゃいけない。
単なる家であっても、そのいち要素として大事にしていかないといけないと思うんです。

おそらく、そうした古い建物の大体は在来工法で建てられていて、
世代が変わるときに、「新しいものが良い」という発想で建替えられているんだと思いますが、
建物の再生の仕方を知らないだけなんだろうなとも思うんです。

極端な例でお話をしましたが、都内でも今後、そういう状況は生まれてくるでしょう。
住宅事業に関わる僕らができることは、まだ点でしかないと思うんですが、
こうした活動が面に広がっていって、
街並なり、日本という大きな地域の、日本という国に対して貢献できることになれば、
こういった事業をやっている僕らとしても、理想的な展開だなと思いますね。

そうした状況を放置しておくと、
先ほど言ったような、細分化された状況が広がっていってしまうので、
そのことに対してどうやって街としてヘッジしていくのかということを、
考えていかなくてはならないと思っています。

紫牟田 :
リビタはマンションのリノベーションをたくさんやっていらして、
今回は戸建てに着手なされるわけですが、
戸建ては土地の上に直に建っているということで、その違いはとても大きいと思うんですね。

戸建てというのは、地面と人続きであるという――、
つまり、外への開放性と、内への閉鎖性といった、両義的な性質を持っていると思うんですね。
そして家自体は、狭小になればなるほど閉鎖性を強くしてきた、と。

しかし今回、リビタがリノベーションのターゲットにしようとしているのは、
そこまで狭小でなく、もう少し大きな家ですよね。
それはやはり、外部との関係性といったところを重視されているのかなと思ったんですが……。

会場の「MFY サロン」は建築家、A・レイモンド設計の築59 年の木造建築。豊かな植栽が街の景観に寄与している。

内山 :
そうですね。
マンションのリノベーションでもそうなんですが、
敷地というものがあって、それは本来マンションの住人のための敷地で、
建物と道路との間にゆとりをもたせる目的で、植栽を植えたりしていますよね。
実はその部分って、マンションの住人たちのためだけにあるのではなくて、
半公共的な空間でもあると感じていて。
そういうところに気を遣っているマンションの方が、価値が高かったりするんですよね。

昔は、「自分たちの敷地は自分たちのためのもの」という、
私有的な発想が非常に強かったと思うんです。
でも、戸建てであっても、マンションと同じようなことが言えるのかなと思っていて。
半公共的に、外部に開いていく。その空間をどのようにうまく使いこなしていくかということが、
実は建物そのものの価値の向上につながっていくような気がしているんですね。

やはり、建物と街との間の空間づくりというのは、非常に大切だなと思っていて、
今回の戸建てリノベーション事業では、その部分も住まい手に委ねようという発想で、
僕らでつくり込まず、きっかけづくりだけをしておこうという考えなんですね。

さきほど、住宅リテラシーというお話がありましたが、
僕らとしてはそういうことも住み手にお伝えしていって、
単なる自分の敷地、住む人のためだけの外構ではなくて、
地域の景観ということも意識しながら手を加えていってもらえるような仕掛けを、
住宅リテラシーを高めていくようなことを、やはり僕らはやっていかないと。

結局、それを維持していくのは、そこに住む方なので、
僕らが勝手につくって、「これ良いでしょ」と言っても、
それを維持継続できる仕組みになっていないと、
結果的にはだめになって、逆にマイナスになってしまう可能性もある。
その部分には、供給者としての難しさも感じますが、必要性をすごく感じています。

その他、おすすめのラボ情報を見る