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「住みながら考えたりつくったりすればいい」01

「住みながら考えたりつくったりすればいい」01

リビタのHOWS Renovation(ハウスリノベーション)が手掛ける次なるプロジェクト「西荻窪の家」がまもなく竣工します。シンプルな素地である「ハコ」の設計はSPEAC(スピーク)、そのハコに対して例えば壁をたてたり、収納をつくったり、空間を編集する「道具箱」として内装を提供するのがtoolbox(ツールボックス)です。まるで器と料理のような、スマホとアプリのような、そんなイメージが近いかもしれません。それぞれのパートナーが「西荻窪の家」に込めた想いやこれからの住まいのあるべき姿について、HOWS Renovation担当者がお話をお聞きしました。第1回はtoolboxの荒川公良さんと一杉伊織さんを訪ね、9月1日にオープンしたばかりのショールームにお伺いしました。

Kimiyoshi Arakawa

株式会社TOOLBOX 執行役員。インテリアデザインを経て住宅やオフィス等のリノベーション設計を行う。2010年より「R不動産toolbox」をスタートし、事業推進をリードする。

Iori Hitosugi

株式会社TOOLBOX マネージャー。古民家再生の設計事務所を経て事業立ち上げ時よりtoolboxに合流。主に設計と施工、プロダクトや工事サービスの開発に従事する。

Asami Tanaka

リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。事業・プロジェクトの企画推進からイベントの開催まで、戸建てに関わることの全般を担当。自邸のリノベーションでもtoolboxを活用中。 (http://www.rebita.co.jp/people/people67)

Scene.1:自分の空間を編集するための「道具箱」

インタビュー風景。9月某日、神宮前にオープンしたばかりのtoolboxショールームにて。

田中:

まずはtoolboxについてお聞きしたいと思います。toolboxは、不動産のセレクトショップサイト「東京R不動産」の兄弟サイトとして、2010年秋にてスタートしました。自分の空間を編集するための「道具箱」として、内装に関わる素材やパーツ、職人によるサービス、アイディアなどを集めたウェブショップとしてスタートしたわけですが、当初はどのような目的で立ち上げられたのですか?

 

左:一杉氏、右:荒川氏。共にtoolboxの中心メンバーとして活躍中。

荒川:
お客さま側から見て家づくりは、希望があってもできないことが多く、不自由なものだと思ったことがきっかけです。設計や施工をやっているプロ側から見ると、家のつくり方はとてもシンプルですが、それが一般の人にはあまり伝わっていない。自分の家なのに、全部人任せになってしまうことに違和感がありました。プロが握っている主導権を開放したら、家づくりはもっと楽しくなるのではと思ったんです。

一杉:
以前、設計と施工の両方をやっていたのですが、お客さまが考えていることが、実際に手を動かす職人に伝わっていないと感じていました。昔は家の改修はもっと身近で、どこの家にも馴染みの大工さんがいるのが当たり前でしたよね。toolboxを使うことで、現在では少なくなってしまった、そういう関係性を取り戻すことが、つくり手と住まい手のお互いの理解を深めることにつながるのではないかと考えています。

ウェブサイト「toolbox」。家の建材やパーツ小物、コラム、空間づくりのアイディアが盛りだくさんに並ぶ。

田中:
toolboxで取り扱っている商品にはどういう特徴がありますか?

荒川:
家の内装に関わるものは全部揃えるという意識で、商品を集めています。特徴としては、つくっている人の背景を感じさせるもの、時間や手のぬくもりが伝わるものが多いです。とはいえ、手作りのものだけとか、自然素材だけとかではなく、選択肢を用意したいという気持ちが強いです。大手メーカーのアイテムと並列で、小さなメーカーや個人の作り手のアイテムも見せたい。そのグラデーションの中から住む人が選べる環境をつくりたいんです。

取手やタオル掛け、スイッチプレート、照明、タイル、木材など、約500点の商品がショールームに並ぶ。展示されていない商品も含めて全1200商品がウェブで購入できる。

田中 :
toolboxはセレクトショップのようで、「そうそう、こういうものがほしかったんだ」というシンプルな軸でものが揃っている。そして素材選びだけではなくって、住まい自体の選択肢や人の関わり方の選択肢を広げたいというメッセージがすごく伝わってきます。

荒川 :
そうです。供給側と住み手側の構造を逆転させたいという思いがあります。現状は住み手が、希望を工務店や設計者に伝えると、彼らが材料や職人を手配し、見積りが出てきますよね。そこには供給側の論理がどうしても存在して、住み手には値段の意味や素材の背景が分らないという状況。編集の主導権がプロ側にあるから、プロから住み手へ提案する形になりますが、主導権が住み手に移ったら、材料や職人が前に出てきて、住み手がそれを選んでいくことになり、材料一つにしても、木がどこで採れたものなのかといったことに興味が出てくると思います。そうすれば家づくりが楽しくなると思うし、気づいたら家のことがよく分かっているという状態になると思います。

一杉 :
材料や工事方法にはそれぞれメリット、デメリットがあって、その判断はプロがしてきたけれど、実は住み手それぞれでその判断基準は違うはず。toolboxでは住み手側がそれを判断できるように、できる限り多くの情報をオープンにしていこうと考えています。そしてプロは判断するのではなく、判断をサポートする役割に変わっていくことが大切だと思っています。

それぞれの素材や商品には、メリットとデメリットがあるのが当然だ。それをリスクととるか魅力ととるかどうかは、住み手次第だ。

田中 :
いまの世の中の住宅供給におけるセオリーは「なるべくクレームがないこと」。それゆえに本物の素材感を感じづらかったり、魅力が薄くて均質な空間だったり。それを「なんかおもしろくない」とか「しっくりくるものが少ない」と、気づき始めている人たちがどんどん増えていますよね。

荒川 :
リスクを決め付けているのは供給側なんです。リスクだとされていることが、ある住み手にとっては全くリスクでないことが多いというのは、toolboxをやっていて痛感しています。

一杉 :
棚受けに鉄を使えば錆びるけれど、それでも本物の鉄を使いたいという人はいるし、錆びない鉄のほうがいいという人もいる。錆が発生する経年変化がかっこいいと思う人すらいる。メリットとデメリットを分かっていれば、どっちを使ったっていいんです。

9月1日にオープンしたショールームは、原宿駅から3分の場所にある。
エントランスの黒い波状の壁は、家の屋根に使われる材料を使用。

田中 :
toolboxのショールームが9月1日にオープンしました。なぜショールームをつくるに至ったのですか?

荒川 :
ウェブショップをやっていくうちに、お客さんの生の声を聞きたいという欲求が出てきたんです。お客さんからも実物を見たいというニーズがありました。お互いに会話をしてアイデアを出し合ったり、素材を組み合わせることをやってみてもらえるラボのような場所にしていきたいんです。

実際に触ったり、組合せを試したりすることができる。ここでワークショップなども予定しているそう。
空間はtoolboxメンバーが、自ら「つくりながら考えた」そう。

田中 :
ショールームの空間はどんな風につくっていったのですか?

一杉 :
電気や配管の専門工事を除き、解体も工事も自分たちでできることは自分たちでやって、現場で考えながらつくっていきました。昼間仕事をして、夜ここに来て「さぁやるか!」という感じです(笑)あとは、頭で考えずに物を見ながら、一つずつ積み上げていきました。今でも終わった気がしていなくて、壁の仕上げがしっくりきていない面もあるし、今後も「やっぱりこうしたい」と思ったら、手を加えていくと思います。悩んで考えている時間が一番楽しいですからね。それが形になっていくのがまた楽しいんです。服だって同じですよね。色々なスタイルにチャレンジして、やっと自分に似合うものが見えてくる。家も同じです。

実はまだしっくりきていないという壁面。今度来るときにはきっと変わっているのだろう。
銅管が印象的な棚のフレーム。

田中 :
壁に取り付けられた棚のフレームは、銅管ですよね。すごく斬新な発想ですが、なぜこれを使おうと思ったのですか?

一杉 :
純粋にかっこよかったからです(笑)この銅管はエアコンの冷媒管に使われるものです。素材として銅がかっこいいから、使ってみようかなと。カットすることもつなげることもできるので、棚のフレームとして使えるとひらめきました。

ベンチは木材を重ねたもの、サブ席は便器という型にはまらない発想で素材を楽しんでいる。
ローテーブルは、キッチンのレンジフードを逆さにしたもの。本来の使用用途にとらわれないユニークなアイディア。
壁にはOSB合板を使用。白く塗装したり、素地のままだったり、場所によって仕上げ方は様々。

荒川 :
壁は全部OSB合板という構造用パネルですが、場所によってペンキの色や塗り方を変えることで、仕上がりの違いを見てもらえるようにしました。同じ素材でも仕上げを変えれば、まったく異なる雰囲気が出せるし、目的のものをつくるために、決まった素材を使わなければいけないということはなく、アイデア次第でいろいろな工夫ができます。フローリングとして売られていても、それは素材として見れば木の板なので、テーブルに張ったっていい。そういう発想は随所にちりばめています。

田中 :
ここに来ると内装やインテリアに正解なんてないことに気づけそうです。空間のこういうところを参考にしてほしいなど、意図してつくった部分はありますか?

壁材や物を止めるベースになる木の下地。木造戸建てやマンションの壁や間仕切りの内側はこうなっていることが多い。
マンションでは軽量鉄骨の下地が使われることもある。

荒川:

仕切りの壁をつくるときに、壁の中の構造が見えるようにしました。木軸と軽量鉄骨のバージョンがあります。壁に物を取り付けるときには、この下地をねらってビスを打ったりします。ウェブからの問い合わせでも「これって壁に取り付けられますか?」という質問が多く説明が難しいのですが、ここに来て見てもらえれば分かりやすいと思います。

 

まもなく公開する「西荻窪の家」。素地のハコに対して、toolboxアイテムを使い住まい手自身が空間を編集できる家。

田中 :
まもなく完成する「西荻窪の家」は、ゼロからつくるオーダーメイドの家ではなく、リノベ済みの一戸建てとして売り出されます。家としてのハコはSPEAC(スピーク)が設計を担当し、内装はtoolboxのアイテムや工事サービスを使って、住まい手が主体的に、家を編集していくプロジェクトです。このままでも住めるし、壁を立てたり、収納をつくったり、パーツをつけたりすることを、toolboxのメニューから選べます。お二人はこのプロジェクトに対して、どんな風に向き合っていますか?

荒川 :
今回は、「住みたい家」か「住みたくない家」かの選択ではなく、住みたい家を自分でつくっていける感覚が面白いですよね。つまり住み手次第でどうにでもなるということです。それをtoolboxが、サポートしていくわけですが、サポートしすぎないようにします(笑)。何でもかんでも決めてあげるのは本質ではないので、自分で考えてみてくださいと積極的に言っていきます。そのためにtoolboxの存在があります。

一杉 :
入居前にtoolboxが、家づくりをお手伝いすることも楽しみなのですが、例えば1〜2年住んでみたら「ここだけこうしたい」など、暮らし方に合わせて家が変わっていってもいい、少しずつ家づくりをしてもいいんです。それはDIYでやってもいいし、工務店や職人に頼んでもいい。toolboxではそのために必要な情報をオープンにしたり、メニューや考え方を提供したりということをやっています。僕たちやtoolboxを通して知りあった職人さんと、長いスパンでお付き合いをしてもらえるかもしれないとか、そんなことを想像するとわくわくします。

「西荻窪の家」では、お客さまとの打ち合わせなども担当いただく予定です。

文:村田保子

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