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「自ら丁寧に手を入れる暮らし」02 A+Sa × HOWS Renovation

「自ら丁寧に手を入れる暮らし」02 A+Sa × HOWS Renovation

リビタのHOWS Renovation(ハウスリノベーション)の新しいプロジェクト「つつじヶ丘の家」「世田谷桜丘の家」が竣工します。この2件の設計を手掛けるアラキ+ササキアーキテクツ(以下A+Sa)の荒木源希さんに、HOWS Renovation担当者がお話をお聞きしました。第2回はA+Saが手掛け、昨年のリノベ・オブ・ザ・イヤーのグランプリを受賞したHOWS Renovationの「世田谷野毛の家」のこと、新たに誕生する「つつじが丘の家」「世田谷桜丘の家」のこと、A+Saが掲げる設計理念などについて詳しくお伝えします。

Motoki Araki

1979年東京都生まれ。2008年にA+Saを佐々木高之、佐々木珠穂と共に設立。設計方法論のひとつに“Hands-on” approachを掲げ、スケッチや模型、時には原寸大のサンプルを製作して設計を行う。事務所内に工房を持ち、設計業務の傍ら施工スタッフが日々何かを製作している。(http://arakisasaki.com/japanese/)

Asami Tanaka

リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。事業・プロジェクトの企画推進からイベントの開催まで、戸建てに関わることの全般を担当。(http://www.rebita.co.jp/people/people67)

Scene.2:環境を紐解き、生まれる住まい

田中 :
A+SaにはHOWS Renovationの「世田谷野毛の家」の設計も担当いただきました。そのときの設計の考え方について教えていただけますか?

アラキ+ササキアーキテクツ(以下A+Sa )荒木源希さん。

荒木 :
既存の家が6層のスキップフロアだったのですが、全部個室で区切られ、縦方向の空間のつながりを感じらない間取りでした。既存の建物の特徴である、6層のスキップフロアは生かし、縦のつながりを引き出すような家にしようというのがコンセプトでした。

「世田谷野毛の家」。家の中心に吹き抜けをつくり、既存のスキップフロア構成をいかしたつながりのある住まいへ。

田中 :
「世田谷野毛の家」に続き、今回は「つつじヶ丘の家」「世田谷桜丘の家」の設計を手掛けていただきましたが、戸建てリノベーションをやってみて、何か感じていることはありますか?

荒木 :
木造の自由度をかなり実感してきています。そして可能性も。木造戸建ては世の中にストックがたくさんある。もともとは普通の建売住宅だったとしてもそれを生かして今後、住む人の住まい方により合った家の形を提供していくチャンスが広がると考えてます。

田中 :
HOWS Renovationをやっていると、戸建てリノベーションは、住む人のためでもあるけれど、街に与える影響もすごくあると感じます。その辺りは、どう思いますか?

荒木 :
それが戸建ての良さですよね。戸建てでもどこまでリノベーションするかによって、それも変わってきます。個人のお施主さんで外壁まで一新するリノベーションは、まだまだハードルがあるのが現状です。リビタが戸建てリノベーションをやることによって、しっかりしたコンセプトで、外壁や外構までリノベーションすることで、街にも良い影響を与えられると感じています。

「HOWS DIY Lab.@世田谷野毛の家」。現場で出た端材などを利用して、DIYでのハンガーづくりを体験できるワークショップイベントを開催。

田中 :
「世田谷野毛の家」を設計して、考え方などで何か変わったことはありますか?

荒木 :
本当に何でもできるんだなと思いました。新築とほぼ変わらないことができるとも感じています。

田中 :
私は最近、自分の中でどんどん感覚が変わっているところがあって、リノベーションにこだわりがなくなったんです。結果的に出来上がった空間が、気持ち良くていいものになることが大事で、その手法が単純にリノベーションだったんだと思うようになりました。「リノベーション→いい家になる」から「いい家をつくる→リノベーション」へと、明確に矢印が逆になっています。

「世田谷野毛の家」。もともと暗い玄関へ光を入れるために、浴室の壁をガラスに。既存があるからこそ生まれた住まい。

荒木 :
そうですね。少し前までは「リノベ感を出してほしい」と期待されることもあったのですが、僕もあまりそこには興味がないです。結果的に気持ちいい空間だったり、住む人にフィットした場ができたら、それでいいなと思っていて、「世田谷野毛の家」を設計したことで、それができることが分かりました。

田中 :
戸建てリノベを手掛けることによって、本当にいい家とはどういうものかを考えるきっかけになっているのかもしれないですね。

荒木 :
戸建てリノベは、これから家を買う人たちにとって、一つの選択肢になることはもちろんなのですが、すでに持ち家に住んでいる人たちにも、家を見直すための後押しになるのではないかと感じています。実際に今住んでいる家が、こういう風に変えられるという事例になりますからね。

A+Sa。メンバーは現在10名(2015年11月現在)

田中 :
ところで、A+Saは荒木源希さんと佐々木高之さん、珠穂さんのご夫婦の3人が主催する事務所ですが、なぜこのメンバーで一緒に設計事務所をやることになったのですか?

荒木 :
もともと同級生で独立した時期も同じ頃だったので、親しかったのですが、あるコンペを一緒にやることになって、考え方に共通する部分が多かったことと、一人でやるより盛り上がったこともあって、一緒にやることになりました。事務所を立ち上げようというときに、設計理念を具体的に3人で考えていくときに、大事にしている部分を共有できたことも大きいと思います。

「世田谷野毛の家」。住まい手のご希望によって、A+Sa自ら壁面にボルダリングウォールをつくったり、収納をつくったり。

田中 :
その設計理念を教えてください。

荒木 :
「状況から発見する」「手で思考する(ハンズオンアプローチ)」「根拠ある判断を積み重ねる」という3つが柱になっています。今は「ハンズオンアプローチ」に力を入れていて、施工部門を設け、工務店さんと協力しながら、工事も自分たちでできることは、手を動かしてやっていこうとしています。

田中 :
「城山の家」でも、合板にエポキシ樹脂を埋めたり、鉄のパーツを自分たちで設置したりしていました。なぜあえて自分たちで手を動かすことをするんですか?

荒木 :
住宅に限らず、建築もインテリアも、基本的にはものづくりだと思っています。自分の手で何かをつくることの延長線上に建物や家があるはずなのですが、今は建物や家をつくることが、あまりにも特別なことになってしまっていますよね。ものづくりと家づくりの間に距離ができてしまっている。だから、「できる」というのを伝えたいという想いがあります。自分で手をかけてつくったものの先に、新しいものや愛着を持てるもの、自分の欲しいものは生まれるのではないかと考えていて、今は模索しているところです。

リビタのリノサポ事例でも、、A+Saがデザイン・制作するシューズラックを取り付け。鉄の角棒と端材のフローリング材を組み合わせたシンプルなものでtoolboxで販売中。

田中 :
そのアプローチは、設計事務所側の手法として始めたことなのでしょうか? お施主さん側から見たときにも、その手法が家づくりに反映されているというイメージですか?

荒木 :
当初は設計事務所の手法としての提案でした。ただ、それを実際に一緒にやっていくと、お施主さんもやっぱり参加したがりますし、手を動かす感覚が分って、住み始めてからも自分たちでやろうというスタンスになっています。結果的に、お施主さんに対する提案ということになっていますね。

田中 :
A+Saとお施主さんの両方が、共有する考え方になっているということですね。お施主さんから感じる変化などはありますか?

荒木 :
「できるんだ」ということ、「やっていいんだ」ということを、分かってもらえているのではないかと感じています。例えば、自分たちで壁を塗れば、どんな素材の上に何が塗ってあるかが理解できるので、何年後かに塗り直したいと思ったときにも、スムーズに自分たちで塗ることができます。

田中 :
まもなく、A+Saが設計を手掛けた、「つつじヶ丘の家」「世田谷桜丘の家」が竣工しますが、それぞれの設計のコンセプトをお聞かせください。

「つつじヶ丘の家」。窓の外に広がる雑木林のある環境を紐解き、光や風を享受する「窓辺の時間」がある家へ。
「つつじヶ丘の家」。窓辺の設えが外観にも表出し、家の顔となる。

荒木 :
どちらも周辺環境を生かすという考え方は共通しています。「つつじヶ丘の家」は、すぐ裏が公園なのですが、既存が建売の住宅で、ほとんど周辺環境を考慮せずに設計されていました。また、駅から少し距離があり、落ち着いた雰囲気のエリアに建っていることから、家族と過ごすことや家での時間を大切にしている人たちの生活がイメージできたので、公園の緑を眺めてゆったりと過ごせる「窓辺の時間」がある家というコンセプトを考えました。公園側に気持ち良い時間を過ごせる窓やデッキを新設したり、既存の窓を大きくするなどして、いくつかの窓を出窓にすることで外観の印象も一新しています。2階の一角には出窓を室内側にも連続させ、ソファ席もつくりました。出窓は、この建物の顔のような位置づけです。建物の顔は一般的にはアプローチ側につくりますが、この家は公園側からの見たときにより魅力を感じたので、裏側を顔にしてしまおうと思ったんです。

「世田谷桜丘の家」。団地内の公園と中学校に面した場所に建つ。(11月現在工事中)
「世田谷桜丘の家」。連続する横長窓によって、外部の解放感や緑を室内へ取り込む工夫。(11月現在工事中)

田中 :
まさに周辺環境を紐解いて、隠れていた住まいの個性を引き出してあげた住まいですね。「世田谷桜丘の家」はいかがですか?

荒木 :
「世田谷桜丘の家」は既存の状態がかなり古く、築50年以上経っている物件でした。最初は何も生かせないのではないかと思ったし、壊して新築にしたほうがいいんじゃないかという意見も出ていました。でも、僕たちもこれくらいの築年数の物件をやってみたかったので、よい機会になりました。設計については、やはり周辺環境がポイントになっています。南側が中学校、西側が公園で、その2面はすごく開けた環境だったので、そこを上手く取り込むということを考えました。そのために、既存の躯体を、ひと回り大きい新しい建物で囲むような形で増築し、南側の中学校と西側の公園に対して、一つながりになった大きな窓を新設しています。

田中 :
この家は古い建物にはよくあるのですが、新築時の建築確認が取れていない建物で、そういった建物を現状の法律に合わせて再生し、世の中の住宅市場に戻すことにチャレンジしているんです。「世田谷桜丘の家」は、どんな住まい手をイメージされましたか?

荒木 :
1階もまったく間仕切りがない空間になっていますので、これからライフスタイルをつくりあげていく人にぴったりだと思います。若い新婚のカップルや小さな子どもがいるファミリーに、積極的に住んでもらえたらいいなと思っています。

インタビュー風景。11月某日「城山の家」にて。

Text:村田保子、Photo:古末拓也

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