馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」04
馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」04
日本で最も多い住宅ストックにもかかわらず、「築20年で価値がゼロになる」と言われる木造一戸建て。
でも、その評価は本当に正しいのだろうか?
いや、リノベーションによってその可能性を引き出し、
価値を高めることができる木造一戸建てもたくさんあるはず。
リビタの戸建てリノベーション事業は、
そんな木造一戸建ての可能性を多くのひとに知ってほしいという思いから始まりました。
5月28日、リビタの戸建てリノベーション事業のプレス発表の場で行ったトークセッション『住まいを編集する』。
デザインプロデューサーとして多方面で活躍する紫牟田伸子氏をモデレーターに迎え、
『東京 R 不動産』ディレクターであり、建築家としても活躍するOpen Aの馬場正尊氏、
そして弊社リビタ常務取締役・内山博文によるリノベーション談義は、
木造一戸建ての可能性、住宅ストックの流通、自立する家づくり、そして街づくりのことと、
話題は多岐に及び、大いに盛り上がりました。
このトークセッションの内容を全4回にわたってご紹介する最終回です。
編集家、デザインプロデューサー。紫牟田伸子事務所SJ代表。美術出版社『BT/美術手帖』『デザインの現場』副編集長を務めたのち、日本デザインセンターにて「ものごとの編集」を軸に、商品企画、コミュニケーション・プランニング/デザイン・プランニング/デザイン・プロデュースなど、社会や地域に適切に作用することを目指したデザイン・マネジメントを行う。2011年8月円満退社。同年9月より個人事務所開設。主な共著に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』(宣伝会議)など。
『東京R不動産』ディレクター、Open A代表、東北芸術工科大学准教授、建築家。1968年 佐賀県生まれ。1994年 早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2002年 Open Aを設立。都市の空地を発見するサイト『東京R不動産』を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。
株式会社リビタ 常務取締役。1968年 愛知県生まれ。大手デベロッパーを経て、1996年 株式会社都市デザインシステムに入社。コーポラティブ事業の立ち上げや不動産活用コンサルティングなどの業務でコーディネイター、取締役、執行役員を務める。2005年 株式会社リビタ代表取締役。2009年 同社常務取締役 事業統括本部長、社団法人リノベーション住宅推進協議会副会長に就任。2013年7月より社団法人リノベーション住宅推進協議会会長。
Scene4「“自立する家”が増えれば、日本の家づくりと街が変わる」
紫牟田 :
以前に電車の中で聞こえてきたんですけど、
お嬢さんに家を建ててあげたいらしい老夫婦の方がいて、
「メンテナンスを考えるんだったら、やっぱ大手だよ」
「それで大手の注文住宅じゃないとさ」ってお話しされているわけです。
それを聞いて、「お嬢さん本人はどう考えてるのかな」とか思ったり。
さらに、「たとえば◯◯社とか、◯◯社とかさ」と、
聞いていると、私でも「あれっ?」って思うようなメーカー名を挙げてるんですよね。
それって、一般の方の住宅に対する情報量が少ないということなんですよね。
住宅を供給する側が提供する情報だけで、終わってしまう。
こういうことは、キッチンとか部分で見ても、全部同じで。
メーカーの情報の見比べしかできないというのは、実はすごく大きな落とし穴で。
いろんな雑誌を読んだり、インターネットで調べたりとかするんだけれども、
「さあいざ!」となったときに、
どういう風に、誰を、何を選んだら良いのか、わからなくなってしまうっていう……。
内山 :
そういう意味では、不動産もそうですし、建築も、ユーザーと我々のような業者やプロでは、
情報の理解や、習性における格差がすごくある世界なんですよね。
そして、業者は、極力そうした情報や習性を開示しない。
いまだに僕らが見積もりをとるときでも、見積もりの出し方が業者さんそれぞれで違って、
どこかに何かが隠されていてもわからないというような、
プロとプロとでやりあっていてもわからない部分があるぐらいなんですね。
なので、できる限りそういうことをオープンにしていって、
フィーを明確にして、明朗会計できるようにして、
気持ちよくフィーを支払えるような仕組みになったら、とても良いと思いますね。
ちょっと話が逸れるんですが、さきほど工務店の話が出たので。
実は今回の戸建てリノベーション事業をやって、ひとつすごく危機感を持ったことがあるんです。
木造在来工法の建物をターゲットにしていくわけですが、
そうした建物は大工さんがつくっているんですね。
最近の住宅のように、工場でプレカットしてきたものを組み立てて建てたものじゃないんですよ。
そうした大工さんが手でつくった建物を、ちゃんと維持修繕できるような大工さんが、
今、どんどん減ってるんですよね。
馬場 :
パートナー企業である工務店の社長さんとお話ししたら、
もう40 代以下ではいないんじゃないかと。
紫牟田 :
えっ!そんなにですか?
内山 :
ええ。「そういう大工はもうほとんどいなくなってるよ」みたいな話を聞いて。
まさに国交省のデータでも、どんどん減ってきているんですけど。
こういう家づくりの形をサポートする仕組みができなくたってしまうなという危機感と、
そういう技術者をちゃんと守っていかないと、という想いがあって。
日本の伝統文化というと大袈裟かもしれませんが、
そういう技術を守るには、そういう大工さんが育成されてこないと、
我々がやりたいと思っても実現できないんですね。
紫牟田 :
そうですね、それは大きな問題ですね。
紫牟田 :
そういうことは、大きな意味でのものづくり全般に言えて。
機械を操作できるひとすらも、すごく少なくなっているんですね。
たとえばニットを織る機械で、その機械の微妙な状態……、感情みたいなものを掬い取れる方が、
本当に少なくなってしまったということは、他の分野でですが、私もよく目にしています。
馬場さんは、そういう問題についてどう思われますか?
馬場 :
僕も、まったく同感で。現場で、ちょっとでも自分で作業してみると、
大工さんがどれほどすごいかを、職人さんがどれほどすごいかということを、痛感します。
現場へ行っても本当に高齢の方が多くて…。
もうちょっとちゃんと、人材を育てるシステムが必要だよなと思います。
やっぱり、つくるひとを尊敬したいですよね。
紫牟田 :
そうですよね。
だから思うんですけど、たとえば一般の方がリノベーションをするからといって、
必ずしもDIY しなくちゃいけないという風には、思わない方がいいですよね。
そういうことの専門家が、ちゃんといるんだって思っていた方が。
そういう人たちとの関係性の中で、家を育てていくんだという風潮が出来ていったら、
状況は大きく変わるのかもしれませんね。
そういうことを考えると、木造在来工法の戸建てのリノベーションも、
さらにリノベーション済みの戸建てを買うということも、
リノベーションという手法自体が、これからまだまだ広がっていくものなんでしょうね。
家というものを主体に考えると、
家がリノベーションされながら、「暮らされていく」といった状況が訪れるのかなと。
すると、その先にある街のビジョンというものも、何となく見えてくる気がするんですよね。
そういったことについてや、これからのリノベーションというものの展開について、
馬場さんは「こうなったらいいな」というイメージとか、ありますか?
馬場 :
そうですねー。
こういう風に、家自体に住み手である自分が参画して介在できるという機会が生まれて、
そのニーズも生まれてくれば、
次はたぶん、街に介在しようという風に思うんじゃないかなという気がするんですよね。
それとですね、2011 年の東日本大震災のときに、自宅の電気と都市ガスが止まりましたよね。
僕の家(※5)はプロパンガスなので、「ガスコンロ付けよう」って思ったら、
点火スイッチが電気式なために、「あっ、つかない!?」っていうことがあって。
そこで、いかに他者に頼った家だったのかを、痛感したんです。
家自身が、すごく自立していない。いわばもう、人任せだったと。
設計は自分でしたけど、つくる作業は自分がやったわけじゃないし、関わっていない。
「あー、他者任せだったんだなぁ」って思ったんですね。
そして、ちょっと大きな話になってしまいますが、そのときに考えたんですね。
今の日本を見たときに、エネルギー自給率が4%とか、食料自給率が30%とか、
「え?あれ??すごく自立してない、日本!」って驚愕したんです。
その、自立できていない家と、自立できていない日本を見たときに、
相似形を見たように思ったんです。
家自身に住み手がコミットして、自立的につくり上げる。
そして、その先の展開として、それがマスになってくると、もっと大きな概念で言うと、
日本という国自体が自立へ向かっていくようなベクトルが働くんじゃないかと。
日本の住宅の状況と、日本という国の状況とが、拡大相似形のように見えたから。
そんな展望が、今回のリビタの戸建てプロジェクトのようなトライアルの先にあって、
新しい住環境を、自らそこにつくり上げていくのが普通だというような、
そんな状況になっていくといいなぁと思っています。
そういう世界につながる、大きな階段なんだな、このプロジェクトは。
そんなことを考えながら、今回のプロジェクトの説明を聞いてました。
紫牟田 :
内山さんは、今後はどういう風になってほしいと思いますか?
内山 :
口裏を合わせたわけじゃないんですけど、
実は全く同じ話をしようと思っていたんですね(笑)
というのは、僕らは供給というか、仕組みを提供してきて、
リビタとしてこれまでの8年間は、リノベーションという手法を通して、
「家を売る」という概念ではなく、「お客様に関与して頂く」という、
少しでも家に愛着を持って頂こうという活動を、頑張ってやり続けてきたんですね。
賃貸のシェアハウスでも、それは実現できると思うし、
カスタマイズができる賃貸というのも提案してきたりとか、いろんなことをやってきたんですが、
実はその背景には、先ほど馬場さんが仰っていたように、
今まで「家を買う」ということに慣れてしまって、
「保証が付いているものが一番」「保証が付いていないものは商品じゃない」というくらいの、
自らリスクを負うことを、消費するときに特に日本人は嫌ってきたということがあって。
自分でちゃんと調べて、自分で善し悪しを判断して、
そのことに対して自らリスクを負っていくという感覚がなかったわけで、
まずはそこから変えていかなきゃいけないんじゃないかと思ってるんです。
馬場さんの仰る通り、まさに「家を通して自立する」ということを、
家に住むということを通して、やっていくべきなんだろうと。
内山 :
家を買うことがゴールじゃなくて、
家は、自立した暮らしを実践するためのきっかけのような存在であって。
そこでどんな暮らしをするのか、家族とどんな関係を築きたいのか、
どんな歴史を刻みたいのかということを、
自分自身でリスクを負いながら、暮らしに向かい合って、
考えていかなければならないと思うんですね。
パッケージ化された3LDKの家を買う方が、楽なんですよね。
みんなが3LDKの家を買ってますから(笑)
「うちは4LDKがいいな」という人は、4LDKの家を買う。
そのぐらいしか、家を買うときに考えていなかったんですよね。
そうではなくて、自分はどう暮らしたいのかということを一度よく考えて、
思い描く暮らしを自分でつくっていかなくてはいけないわけです。
(スクリーンに映されたリビタの戸建てリノベーション事業の
「暮らしをつむぐ」というキャッチコピーを指して)
ここに「暮らしをつむぐ」と書いていますが、
私は担当者に「自立する家」みたいなタイトルを考えた方がいいんじゃないかと言ったぐらい、
この事業を通して、一番ユーザーに体感して頂きたいことというのは、
「家を通して自立していく」ということなんですね。
今回の我々の事業が、そういう住文化を築く上でのひとつのきっかけになったら――、
それはとても喜ばしいことで。
戸建てのリノベーションの場合は、
建物の弱いところとか、何が足りないとかいったものが、非常に見えやすいので、
我々がサポートすることで、住み手自らが負える部分も出てくるだろうと考えていて。
大手メーカーがつくる完成された住宅を買うんじゃなくて、
そういった未完成のものにあえて立ち向かってみようという感覚があれば、
フレキシブルに住まいと付き合うことができるようになっていくんじゃないかと、思っています。
紫牟田 :
今までのお話を伺っていて思ったのが、
今あるものを活かしながら家を使うということ以上に、
家そのものを、一緒に暮らすパートナーとして扱うような感覚が、
リノベーションにはあるように思うんですよね。
それが、すごくいいなぁって思って。
それから、やっぱり何かをつくっていくのって、楽しいですよね。
「この家具はどうしよう」「このアイテムはこっちに置いた方が良さそう」とか、
そういった模様替えは、とても楽しいことだとわかっている人が多いんだけども、
それが大規模になってくると、できなくなってしまうんですよね。
なので、今回の「練馬石神井台の家」のように、
住み手が介入する余地を残しながらリノベーションした住まいのなかでなら、
すごく楽しく暮らせるんじゃないかなと。
日常の有り様は、こういったシンプルな空間の中でこそ、
とても多様な展開を見せるんじゃないかと、そんな想いを抱きました。
「リビタさん、これを7年前にやってくれてたら、すごく良かったのに……」と、
つくづく思いましたよ(笑)
馬場 :
7年前じゃ、無理だったろうなぁー。
紫牟田 :
でも、そういう意味では、家のつくり方や、住宅リテラシーというものが、
あっという間に変わってきた昨今だと思います。
そして、今後も非常に大きく変わっていくんじゃないかと感じましたね。
つたない司会でしたが、お二人のお話、十分お聞かせ頂けたかと思います。
どうもありがとうございました。
馬場&内山 :
ありがとうございました。