馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」03
馬場正尊+内山博文×紫牟田伸子トークセッション「住まいを編集する」03
日本で最も多い住宅ストックにもかかわらず、「築20年で価値がゼロになる」と言われる木造一戸建て。
でも、その評価は本当に正しいのだろうか?
いや、リノベーションによってその可能性を引き出し、
価値を高めることができる木造一戸建てもたくさんあるはず。
リビタの戸建てリノベーション事業は、
そんな木造一戸建ての可能性を多くのひとに知ってほしいという思いから始まりました。
5月28日、リビタの戸建てリノベーション事業のプレス発表の場で行ったトークセッション『住まいを編集する』。
デザインプロデューサーとして多方面で活躍する紫牟田伸子氏をモデレーターに迎え、
『東京 R 不動産』ディレクターであり、建築家としても活躍するOpen Aの馬場正尊氏、
そして弊社リビタ常務取締役・内山博文によるリノベーション談義は、
木造一戸建ての可能性、住宅ストックの流通、自立する家づくり、そして街づくりのことと、
話題は多岐に及び、大いに盛り上がりました。
このトークセッションの内容を全4回にわたってご紹介する第3回です。
編集家、デザインプロデューサー。紫牟田伸子事務所SJ代表。美術出版社『BT/美術手帖』『デザインの現場』副編集長を務めたのち、日本デザインセンターにて「ものごとの編集」を軸に、商品企画、コミュニケーション・プランニング/デザイン・プランニング/デザイン・プロデュースなど、社会や地域に適切に作用することを目指したデザイン・マネジメントを行う。2011年8月円満退社。同年9月より個人事務所開設。主な共著に『シビックプライド:都市のコミュニケーションをデザインする』(宣伝会議)など。
『東京R不動産』ディレクター、Open A代表、東北芸術工科大学准教授、建築家。1968年 佐賀県生まれ。1994年 早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2002年 Open Aを設立。都市の空地を発見するサイト『東京R不動産』を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。
株式会社リビタ 常務取締役。1968年 愛知県生まれ。大手デベロッパーを経て、1996年 株式会社都市デザインシステムに入社。コーポラティブ事業の立ち上げや不動産活用コンサルティングなどの業務でコーディネイター、取締役、執行役員を務める。2005年 株式会社リビタ代表取締役。2009年 同社常務取締役 事業統括本部長、社団法人リノベーション住宅推進協議会副会長に就任。2013年7月より社団法人リノベーション住宅推進協議会会長。
Scene3「自分で自分の家を編集する。自分の家を“育てる”住まい方」
馬場 :
日本人には「家を守る」っていう感覚があるじゃないですか。
戦後どんどん住宅が出来て、高度経済成長の中で家を手に入れて、
その家が、日本の住宅は過度に商品化し過ぎたんだと思うんですよね。
その商品化住宅は当初は、できるだけ早くたくさんの人々に、一定以上の品質の住宅を供給する、
そういうヒューマニズムに支えられていたわけです。
僕は、そのヒューマニズムのある意味すごく良い点が、
こうした住宅形態を生んできたと思っているので、それには基本的に肯定的なんですけど、
それがいつの間にか、ただの商品、付加価値商品、差別化商品に切り替わって、
成長していってしまったプロセスがあったじゃないですか。
そして僕ら消費者は、市場はそれをほしがったわけですが、
今ここに来て、「あれ?それって本当に幸せだったのかな?」ということに、
特に若い世代は気がつき始めている。
「家を守る」という感覚でいくと、買ったばかりの商品はピカピカで、
できるだけそれに近い状態にしなくてはと心のどこかで思いながら、
守りに入るようなスタンスでしか、家との付き合いができなかったと思うんですよ。
でも、次の世代は、家を「守る」のではなく、「育てる」みたいな、
子どもと一緒に育っていく……。そんな感覚で家と付き合っていくような、
今の世代はそんな感性が持てるぐらいに、余裕が出てきたんじゃないかと。
感性というか、経済的にも。
そうなってくると、住宅リテラシーの話でもありましたが、
ものすごくつくり込んだものを渡されるよりも、
まだつくり込める隙がたっぷりあって、ワクワクするような状態で渡された方が、
「よっしゃ、それじゃ育ててやろうかな」なんて、思うわけですよ。
消費者としての僕らの、住み手側のモードチェンジというかですね、
そういう動きが起きていることも大きいと思うんです。
なので、今回の「練馬石神井台の家」のような家を見て、スイッチが入る人もいると思うんですよね。
「あ、俺もやれるかも」と。
僕も「スケルトン住宅出そうぜ」と企画して、『R不動産』でバーンっと出すとですね、
お客様が来てくれるんですけど、
「馬場さん、これ、工事現場ですよね?」って言われて、
「いや、これがスケルトンなんです」と答える、という…(笑)
スケルトンに対する理解や知識には、まだこんなにギャップがあるんだと思ったんですね。
でも、今回リビタがリノベーションした「練馬石神井台の家」は、
あれはいわばハーフスケルトンですよね。
紫牟田 :
そうですね。50%。
馬場 :
50%ぐらい。ちょうどいいなあ。
紫牟田 :
以前に馬場さんとお話しましたよね。スケルトンにもパーセンテージが、段階があるって。
100%スケルトンじゃ、普通の人にはわからない。50%くらいじゃないとね。
馬場 :
そこが、住まい手に対する思いやりがありますよね、あの「練馬石神井の家」のデザインは。
内山 :
「余白をつくる」とか、「隙をつくる」ということが、すごく大事だなと最近、感じていて。
そう考えると、家はハードウェアではなくて、
なんというか……、ソフトウェア的な要素が重要なんじゃないかと、強く思うようになってきて。
それで今回こういった、ハーフスケルトン状態で分譲し、
住み手に手を加えていってもらう仕組みになっているわけですが、
リビタで手掛けているシェアハウス、これは700 戸近くやっているんですが、
これも実は、住民が関与できる隙をつくってるんですよね。
ハードウェアではなくて、ソフトウェアの部分ですが、
僕たちはコミュニティづくりのきっかけをつくることはしますが、
その中でどう楽しむかは、そこにいる方たちの自由で、
自分たちで構築できるし、どんな形に構築するかも自分たち次第なんです。
だからルールも、ガチガチに決めるよりは、ある程度ゆるくして設定しておいて、
やってはいけないことだけは決めておくんですが、
それ以外は、特に何かをしなくてはいけないというものは一切、設けないようにしているんです。
最近、感じるのは、シェアハウスはもともと、
ものをシェアする、箱をシェアする、空間をシェアするということろから広がったんですが、
今では、その価値をシェアするというところが支持されていて、
そういった価値観の変革は20 代の方が中心で、今後はこういう方が家を買うようになるわけです。
そうするとたぶん、ハードウェアを重視して家を買う人たちというのは、
かなり減ってくるんじゃないかと。
余白の部分、隙に対して、僕らが何らかのサービスというか、
ユーザーが望むもの、向かっていくところの先に、
どんな風に手を差し伸べることができるのかが、重要になってくる気がしますね。
紫牟田 :
「編集する」というときに、何を拠り所にして編集したら良いのかというところが、
これからこういったスタイルのリノベーションを広げていくときに、
とても重要になるのかなと思うんですが、
馬場さんはいつもリノベーションをするときに、いつも編集の“ へそ” みたいなものを、
つくってやってらっしゃるというお話を以前にされていましたが、
戸建ての住宅のリノベーションに対して、その“ へそ” を据えるとしたら、
どういったものがあると思いますか?
馬場 :
そうですねー。僕は今、建築家として、建築の設計をメインに活動していますが、
10 年くらい前は、雑誌の編集をやっていました。
もともと大学では建築を専攻していたんですけども。
編集者として雑誌をつくったり、本をつくったりしていたんですが、
それを編集する感覚と、住宅をリノベーションしてつくっていく感覚が、すごく似ていたんです。
新築と比べても、特にリノベーションの場合は、編集的だなと思いました。
なので今、家を「編集する」ためのツールとして、
『toolbox』(※2)という、『東京R不動産』(※3)の新しいサイトを始めたんです。
馬場 :
それで、なぜリノベーションが編集的なのかというとですね、
雑誌はある特集があって、あるテーマがあって、
それがどうやったら魅力的に組み上がるのか、という風に編集者が考えていきますよね。
住宅のリノベーションの場合はというと、
住宅を分解していくと、たとえば水栓、トイレ、建具、ドア、照明とかの、パーツになるんです。
そして、住宅のリノベーションの場合はまず、箱がもうあるんですね。
この箱は、雑誌のような存在で、
そこに、何をどう風に組み合わせて、どんなプロポーションで見せていこうか、
という作業をしていくわけです。
もちろん、専門家でないとわからない部分もありますが、
リノベーションの際に重要なのは、そういうセンス。編集感覚なんです。
それを具体的に形にしていくのが、建築家や工務店といったプロかもしれない。
住み手側が、自分の空間を自分でつくろうとするときに、
設計とかデザインという感覚よりも、編集という感覚を持って望んだ方が、
自由で、つくりやすいんじゃないかなと思ったんですよ。
そういう意味で、『toolbox』というウェブサイトでは、
「編集するのは、住み手のあなたです」というメッセージを出している。
編集のための、材料やパーツといった素材を提供するのは、僕らです。
でも、箱と素材の間をつなぐためのちょっとした工事とか、
「この壁半分くらいは自分たち塗れるけど、全部塗るのは大変だからサポートが欲しい」とか、
そういった、住み手が家に参画するための“ つなぎ” をつくるという、
今までになかった領域のサービスがあれば、そういうことを始める人は多いんじゃないかと。
そういうことを考えたのは、『東京R不動産』に、
「そんなことできませんか?」という問い合わせが、実際にたくさんあったから。
でも、設計者として携わるには規模が小さすぎたりして、
「このぐらいなら、あなた自分でできるんじゃない?」というのが発端でした。
でも、そこに橋渡しがない限り、住み手が自分でできる可能性は生まれない。
『東京R不動産』で『toolbox』を始めた背景にはそういったことがあったんですが、
僕らがコンテンツ側をつくろうとしていたのと同じようなタイミングで、
その、雑誌というか、箱というか、編集の母体側の方を、
リビタはつくろうとしてくれているんだなと、そう思いながらプレス発表を聞いていましたね。
紫牟田 :
最近ですね、「どんな風にものを選んだら良いですか?」とか、
「美しい暮らしのためにはどうしたらいいですか?」とか、そういう話をよくするんですね。
そのとき、「もう、もの単体で語る時代は終わっているんだな」と感じて、
それで、「家から発想したら?」と思ったんです。
たとえば、なにか憧れているものがあって、
そういうものをたくさん集めるというやり方は、よくありますよね。
でも、別の方法として――、
たとえばですね、もしかしたらこれは私だけの感覚かもしれないんですが、
私の家は築40 年の家で、モダン(近現代的)なんですよ。
そうするとですね、モダンな家具が、やっぱり似合うんですよ。コンテンポラリーなものよりも。
コンテンポラリーなものは、それはそれですごく好きなんだけども、
編集したいのは家なわけだから、結果的に、家に合うモダンなものを選ぶんですね。
職業柄、北欧系とか、そういうものも増えてしまうんですが、
基本的にはそうやって、家に合うものを組み合わせていくようにしていて。
そういうことってあるんだな、と思いましたね。
それで、もしかしたら、こういう戸建てのリノベーションでは、
家をきれいにするとか、家を飾るといったことが、やりやすいんじゃないかと思ったんですよ。
家そのものに“ 記憶” があるから。
そういった家の“ 記憶” を引き出す……という意識がこちらにあるわけではないんですが、
そこを拠り所にしてできるわけじゃないですか。
私では「買ってもリノベーションできない」と思ってしまうような家も、
リビタが買い取ってきれい整えると、私でも「買いたい」と思うような家になるということは、
住み手にすごくいいきっかけをつくってくれているように思うんですね。
どこからどう編集するかのきっかけって、すごく難しいじゃないですか。
実は、『toolbox』は、ちょっと上級者向けな感じがするんですよ。
リビタがつくる戸建てリノベーションは、
その編集作業を、中級とか初級まで、下げてくれる感じはします。
内山 :
いろんな人がそう感じてくれたら、
それはある意味、私たちがやろうとしていることのゴールだと思いますね。
なので、できるだけ、住み手を選ばないようなつくり方をしたいなと思っていて。
「この家は、この家具じゃないと合わない」という家を提供するのではなくて、
その家自身にある歴史も、家を編集していくヒントになり得ると思うけど、
私たちがある程度のベースをつくったところから、
『toolbox』の書籍(※4)の紹介でも「妄想、広がります」というコピーがありましたが、
まさにそう、妄想して頂いて、自らつくり続けて、育てていく。
馬場さんが先ほど仰った、「家を育てる」という言葉、素敵だなと思って聞いていたんですが、
本来、そうあるべきなんじゃないのかな、と思うんです。
と言うのも、ある人から言われて、とても共感したことがあって。
この会場にいるみなさんも、僕らもどちらかというと、
そういう教育をされてしまっていると思うんですが、
家を売るとき、買うときに、全部つくり込んでしまうじゃないですか。
でも、日本人は飽きやすいから、10 年も経つとその家に飽きてしまって、手も入れなくなって。
インフィルを入れ替えてしまおうと思えるくらいの資金力があればやってしまうんでしょうが、
ほとんどの方は、10 年後や20 年後を想像してつくったのに、
うまくいかなくて飽きてしまうということがあるんじゃないかと。
それから、人間は基本的に飽きっぽいんだから、それをわかっているのに、
なぜ無理をして10 年後、20 年後を想像して最初につくり込んでしまうのか。
そんな話をある人からされたときに、なんというか、すごくしっくりきたんですね。
でも、供給側の人間は、誰も今までそんなことを言ってこなかった。
むしろ、そうした想像を押し付けて、どんどんつくり込んだ方が、売上は上がっていくわけです。
その――、最初から、完成形を目指すというか。
紫牟田 :
そうそう、最初に想定された完成形のまま、100 年後を迎えると思っているのかっていう。
内山 :
今現在で築100 年も経っている家なんて、たぶん僕らでもわからないくらい、
当初の形から改変されてしまってるはずなんですよ。
今の状態を見るとすごい家だなと思うかもしれないけれど、
今に至るまでに、何回も何回も、改変されて変わってるはずなんです。古民家とかもね。
馬場 :
パッケージ化されてたってことなんですよね、日本の家がね。
そこへ、パッケージ化されていない家を提供しようというのが、
今、リビタが目指していることだと思うんです。
ひとつ、お話ししていて気がついたのは、今回のリビタのトライアルというのはですね、
日本の家づくりのブラックボックスを透明化してしまうという、
ある意味、すばらしい試みであり、ある人にとっては恐ろしい試みであり(笑)
そんなディスクロージャーが行われる機会をつくっちゃったなと(笑)
それで、このディスクロージャーには、ふたつの意味があってですね。
ひとつは、家自体の透明化、物理的な情報開示ですね。
「ここの金物、これで留めてたんだ」「これじゃだめでしょ」みたいなね。
それから、一旦解体して、問題箇所が健全化されるとなると、
何もしないで放置されている築20 年や築25 年の住宅よりも、はるかに健全ですよね。
だって、痛んでいるところを、直すわけですから。
人間だったら、全身をCT スキャンとかMRI とかして、問題点を治すことですよね。
それは、つくった側が表沙汰にしたくなかった部分、
家の中に隠れていたブラックボックスを開示するというのが、ひとつ。
もうひとつが、流通のブラックボックスの開示ですね。
これは『toolbox』でも、テーマに掲げてやっているんですが、
今まで、扉とか、水栓とか、最近トイレはOK になってきましたが、
全部、エンドユーザー、住み手が直接買うことができなかった。
全部、工務店経由でしか買えなかったんですね。
なので、工事費の中で、それらがいくらぐらいになっているのかが、わからないんです。
要は、正しい値段で買えているのか、値段をごまかされて買わされているのかが、わからなくて、
なんだかもやもや感が残る……みたいな感じだったんですね。
そこで、『toolbox』では、取り扱うものすべての値段を表示して、
ドアノブひとつはいくら、天井を解体してくれる職人さんの人工代はいくら、
という風に、明朗会計にしているんです。
今回のリビタの戸建てリノベーションは、
あるレベルからは「住み手が自らつくってね」と言っているので、
家づくりのプロセスにおける流通価格を、誰かにコントロールされるのではなく、
住み手がコントロール可能というモードをつくろうとしているわけですよね。
内山 :
『toolbox』もそうですが、今ってユニットバスもインターネットで買えちゃう時代なんですよね。
実は結構、オープンなマーケットがあって。
でも、それを推奨したいというわけではないんですが、
馬場さんの仰る通りで、そういうブラックボックスの部分を透明化していくという役割も、
僕らにはあるのかなと思っていて。
※2『toolbox』「自分の空間を編集するための“ 道具箱”」をコンセプトに、住まいづくりのためのア
イデアやイメージをカタログ化して紹介し、アイテムやサービスを販売する、『東京R 不動産』が運営
するウェブサイト。http://www.r-toolbox.jp
※3『東京R 不動産』「レトロな味わい」や「倉庫っぽい」など、ユニークな視点で不動産を紹介して
いるウェブサイト。不動産のセレクトショップであり、不動産のメディアとして、不動産の新しい見方
やつかい方、付き合い方を提案している。http://www.realtokyoestate.co.jp
※4『toolbox 家を編集するために』2013 年3月に発刊された、『toolbox』の第一弾書籍。『toolbox』
で紹介するアイテムやサービスの紹介のほか、それらのつくり手たちのインタビューも交え、“ 自分の
家を自分で編集する” という考え方とその楽しさを綴った一冊。(著者:toolbox +蔦屋書店〈カルチュ
ア・コンビニエンス・クラブ〉定価:1,260 円 発行:阪急コミュニケーションズ)