「自ら丁寧に手を入れる暮らし」01 A+Sa × HOWS Renovation
リビタの戸建てHOWS Renovation(ハウスリノベーション)の新しいプロジェクト「つつじヶ丘の家」「世田谷桜丘の家」がまもなく竣工します。この2件の設計を手掛けるアラキ+ササキアーキテクツ(以下A+Sa )の荒木源希さんに、HOWS Renovation担当者がお話をお聞きしました。第1回は荒木さんのお兄さま、荒木岳志さんの自宅「城山の家」を訪ね、岳志さんにもご参加いただきながら、A+Saの設計に対する考え方を探りました。
「城山の家」の住まい手。東京都稲城市の福祉関連の施設に勤務。趣味は釣り、山登り、家庭菜園、キャンプなど、アウトドア関連が中心。2年前にご結婚し、現在は奥さまと2人暮らし。
1979年東京都生まれ。2008年にA+Saを佐々木高之、佐々木珠穂と共に設立。設計方法論のひとつに“Hands-on” approachを掲げ、スケッチや模型、時には原寸大のサンプルを製作して設計を行う。事務所内に工房を持ち、設計業務の傍ら施工スタッフが日々何かを製作している。(http://arakisasaki.com/japanese/)
リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。事業・プロジェクトの企画推進からイベントの開催まで、戸建てに関わることの全般を担当。(http://www.rebita.co.jp/people/people67)
Scene1:必要最小限からはじめる「城山の家」
田中 :
A+Saが手掛けた「城山の家」は、荒木さんのお兄さま、岳志さんのご自宅です。まず岳志さんにお聞きしますが、この家は岳志さんが独身の時に建てられたのですよね。
荒木岳志さん(以下岳志) :
そうです。3年前に竣工し、しばらくは1人暮らしでした。1年くらいしてから結婚して、それからは妻と2人暮らしです。
田中 :
立地は橋本駅から車で20分くらいの場所ですが、どうしてこの敷地を選んだのですか?
岳志 :
川釣りや山登りなどが趣味で、自然が好きだったので、オフは自然の中で遊べて、車で職場まで通える場所ということで、ここを選びました。車で30分くらい走ると、もう山梨と神奈川の県境で、その辺りは東京や横浜に住む人がレジャーに来るようなエリア。自宅の近辺がそういう環境というのが気に入りました。
田中 :
アウトドアや自然がお好きということで、エリアは郊外をご希望されていたんですね。そうするとエリアの特性上、はじめから戸建てに住もうと決めていたのですか?
岳志 :
完全に戸建てと決めていて、弟に設計をしてもらいたいという気持ちがありました。やりたいことのベクトルが、畑や木工芸のほうへ向いていたので、戸建てはその辺りの自由度が高いと感じます。
荒木源希さん(以下源希) :
畑をここまでやるとは思っていなくて、夏に遊びに来たときに、すごくたくさん野菜が実っていておどろきました(笑)。
田中 :
ここからは家について、設計者のA+Saの荒木源希さんにもお聞きしていきたいのですが、水まわり以外は一切間仕切りがない、正方形の箱のような空間ですね。2階は一部に床が張られていますが、半分くらいは吹き抜けになっていて、梁だけが見えている状態です。このプランはどのように決めていったのですか?
源希 :
当初は一人暮らしで、持っているものも少なかったので、必要最小限の住まいをシンプルにつくりました。今後、結婚したり家族が増えたりしたら、変化に合わせて自分で手を加え、愛着を育てていけるような家にしたかったんです。だから間仕切りもないし、2階の床は必要な分だけ張って、残りは吹き抜けに。床が必要になったら、必要な分だけ増やしていくという感じです。具体的な希望として聞いていたのは、車が2台置けるスペースと薪ストーブ、土間が欲しいということくらい。そこから、この敷地に建物をどう配置するか考えていきました。
田中 :
容積率は許容が80%のところ57%、建ぺい率は許容が50%のところ35%、もっと広く大きな家を建てられるけれど、ともに余裕がありますよね?
源希 :
予算的な問題もありましたし、庭をつくりたいということで、いっぱいに建てる必要はまったくなかったので、面積としても本当に必要最小限に建てています。ただ、気持ち的にゆとりが持てて、ゆったり過ごせる空間にすることは意識しました。
田中 :
家を建てるときは、目一杯大きく建てようとすることが、都心部でのセオリーだと思うのですが、あえてそうしない豊かさを実感できる家ですね。
岳志 :
もともと小さな家で暮らしたいと考えていて、9坪ハウスをネットなどで見て、それくらいの面積で住めるんじゃないかなとイメージしていました。そこに遊べる広い庭があったらいいなと思っていました。
源希 :
うちの家族は旅行といえば、いつもキャンプだったんです。旅行というか放浪の旅みたいな(笑)。家族みんなでテントを車に積んで、自由気ままに走って、テントを張って、山に登ってというのを10日間くらい繰り返すような旅です。テント生活や最小限の暮らしに慣れているし、その自由さを知っているみたいなところはあります。
岳志 :
その自由さや感覚が、実際の暮らしにも反映されている部分はあると思います。山小屋みたいな家がいいなと思っていましたから。
田中 :
だから、あえて床も間仕切り壁つくらずに、将来的につくっていけるようにして、最初は最低限でというコンセプトだったんですね。
岳志 :
隠れるところがないんですよね。結婚して妻が最初にこの家に住み始めたときは、「着替えるところもないし、どうしよう」と思っていたみたい。でも今では、壁のない空間を私より楽しんでいます。私は将来的に、子どもができて家族が増えたら、間仕切りなどが必要になるかなと感じていますが、むしろ妻のほうは、「この家の良さだから、壁をつくらず暮らしてもいいんじゃないの?」と言ってくれています。
田中 :
間仕切りのないオープンな家で、良かったことや暮らしやすいことはありますか?
岳志 :
こもれないので、喧嘩をしていても長くは続かないってことかな(笑)。声が通りやすいので、一声かければすぐにコミュニケーションが取れる良さはあります。1階と2階で物の受け渡しができるのもいいですね。
源希 :
1階は梁下で2.1mくらいと、高さも最低限にしているので、普通の2階より近いんですよね。
田中 :
間取りだけではなく、素材もシンプルですよね。壁・天井は構造用合板、フローリングはオーク(ナラ)の無垢材、階段の手すりなどはスチール、水まわりの壁はフレキシブルボード。仕上げに使っている材料も数えられるくらいです。
岳志 :
最初からリノベーションが前提になっているという感じがします。これが完成形ではなく、住み手の家族構成や趣味嗜好によって、いかようにでも変えていけるというのがこの家の良さなのかなって。
田中 :
玄関の収納と2階の収納は、入居してから岳志さんがDIYでつくられたそうですね。
岳志 :
住み始めてから、やっぱり靴や服を入れる場所が欲しかったので、自分でつくってみました。玄関の収納は、水まわりが収まっている箱と同じ素材のフレキシブルボードでつくって、扉も付けました。重くて加工が大変だったのですが、統一感があったほうがいいかなと。それから、夏にトップライトからの日差しが強すぎたので、フックをつけて布を引っ掛けるようにしました。それで随分、温度が下がったので助かりました。トップライトは家全体が明るくなるし、小鳥が上にいたり、夜は月や星が見えたりして楽しいのですが、工夫が必要になる面もありますね。でも、そうやって考えたり、工夫したりして、家とつきあっていくことも楽しいなと思います。
田中 :
家の中心に大きなトップライトがあることも、この家の特徴ですよね。このトップライトを付けることは最初から決めていたのですか?
源希 :
最初は平屋を提案していたのですが、ちょっとコンパクト過ぎるという話になって、現在のようなプランになりました。そんな中で、この家がどんな風に変わっていっても、残っていく軸になるようなものをつくりたいと思って、トップライトを提案しました。
田中 :
トップライトがあることによって、外とつながっている感じがすごくしますよね。あと、土間はどのような使い方をされていますか?
岳志 :
当初はDIYをやるために、木工系の道具を置こうと思っていましたが、まだ実現していません(笑)。現状としては、庭で畑仕事をした後に長靴のまま入ってそこで脱いだり、畑の道具を一時的に置いたりして、庭と家をつなぐような場所として活用しています。今もさやえんどうの苗を土間に置いているのですが、寒い時期は苗を育てたり、薪ストーブの薪を置いたりするような感じで、屋外のような感覚で使っています。
田中 :
A+Saでは、設計だけではなく、工事も自分たちでやることが多いとお聞きしました。今回の「城山の家」では、自分たちでつくった部分はありますか?
源希 :
たくさんあります。キャットウォーク、手すり、階段のささら(側面の板)、玄関の庇などは、鉄職人さんにつくってもらったのですが、それらも全部自分たちで設置しました。あとは、壁・天井に使った構造用合板を仕上げに使うことにしたので、できるだけソフトな印象にしたいと思い、すべての節をエポキシ樹脂で埋めて、サンディングしています。触ってみるとすごくツルツルで、服などに節が引っかかることもありません。単純に仕上げだけではなくて、自分たちでできるところは、自分たちでつくるというスタンスでやっています。
田中 :
引き続き第2回では、その辺りのA+Saの設計に対する考え方を、じっくりお聞きできればと思います。
Text:村田保子、Photo:古末拓也