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暮らしながら付け足せる家具と家01

暮らしながら付け足せる家具と家01

リビタのHOWS Renovationが手掛ける「石神井台の家」が竣工しました。1階と2階の間にある1.5階のスペースにスリット状の開口を設け、家全体につながりと光が生み出された空間は、さまざまな暮らしのシーンをイメージさせます。空間の使い方をより具体的に見せてくれているのは、「WOODWORK(ウッドワーク)」の「FACTORY RACK(ファクトリーラック)」という、合板を金具でジョイントした家具。「石神井台の家」をともにつくり上げた、設計事務所「AIDAHO(アイダホ)」の長沼和宏さんと澤田淳さん、「WOODWORK(ウッドワーク)」の藤本雅也さんにお話をお聞きしました。

Masaya Fujimoto

1977年生まれ。お茶の水美術専門学校卒業後、WOODWORKに入社。材木屋が手がける家具ブランドとしてWOODWORKをリニューアル。2016年にWOODWORKとして独立。代表、デザイン、制作を務める。 (http://woodwork.co.jp)

Jun Utsunomiya

リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。商業施設の内装設計を経て住宅の分野へ。現在はプロジェクトの企画から建築ディレクションを担当。 (http://hows-renovation.com/)

Scene.1:工房から生まれた、アレンジしながら育てる家具

WOODWORKの店舗と工房は、東京の下町・御徒町(台東区)にある。

宇都宮 :
今回は暮らし方の一つの提案として「石神井台の家」に、「WOODWORK」から「FACTORY RACK」という家具を中心にお借りして、現地で紹介させていただいています。「AIDAHO」の長沼さん、澤田さんと設計の打ち合わせをしていく中で、もっと空間特性を活かした家具の使い方や育て方の提案ができるんじゃないかという話になって、「WOODWORK」を紹介していただきました。そもそも「WOODWORK」が家具をつくりはじめたのは10年くらい前ということですよね?

藤本 :
そうです。もともとは御徒町で明治30年に創業した「下甚(しもじん)商店」という材木店からスタートしています。木を売るだけではなく、工房をもって職人を抱え、住宅や劇場の舞台などをつくっていた珍しいスタイルの材木店だったんです。その流れもあって今から30年くらい前に、一般の方に材木を販売するショップを立ち上げたのが「WOODWORK」の始まりです。木をカットするサービスなど細かいニーズに応えていくうちに、家具をつくってほしいというオーダーが増えてきて、オリジナルの家具をつくって販売するようになりました。現在は1階が店舗、地下が工房になっていますが、この工房は「下甚商店」の時代から引き継いでいるものです。

店舗は1階部分。大きな窓から光がそそぐ明るい店内。
地下の工房。店舗を訪れた人に、積極的に公開をしている。

宇都宮 :
「WOODWORK」の家具はすべて地下の工房でつくられているんですよね。ショップのすぐ下に工房があって、つくっているところをお客さまにも積極的に見てもらっているということですが、それはどうしてですか?

藤本 :
普通は家具のつくり手がお客さまと話すことはありませんが、工房をオープンにすることにより、コミュニケーションが生まれます。店頭でオーダーをお聞きした後、そのまま工房へ下りて、材料を見ていただいたりすることも多いのですが、そこからは職人が引き継いで木について説明します。そのほうが説得力もあるし、信頼してもらえますよね。

工房にはこれから家具になる材木や、つくるための道具が並ぶ。

宇都宮 :
職人さんたちは、自分の仕事を見せることに対してどう感じているんですか? 職人さんの中には、仕事は見せるものではないし、作業しているときに見られると気が散るという人も少なくないんじゃないでしょうか?

藤本 :
最初はすごく嫌がっていました(笑)。手が止まって、作業時間が増えてしまうというデメリットもあります。でも、あえて手を止めて、お客さまと話してみると、僕たちが考えていることとはまったく違うことを気にしていたり、思いも寄らないニーズを発見することも。それを家具に落とし込んでいくと、より良いものをつくることができるという手応えを感じました。そして、ものづくりの現場を見ることが好きな人が多いんだなということも実感しましたね。その経験がワークショップに力を入れることにもつながっていると思います。

家具職人が自ら、陽気に語ってくれる姿が印象的。

宇都宮 :
ワークショップを精力的に開催していることも、「WOODWORK」の特徴の一つですね。

藤本 :
ワークショップは、「WOODWORK」に工房があることをより広く知ってもらうために始めました。最初は家具ができる工程を知ってほしいということで、一枚板の小テーブルをつくるワークショップをやったのですが、職人にとってもつくり方を人に教えるということが良い経験になって、とても楽しかったんですね。それからどんどんやっていこうという感じになって、「WOODWORK」でしかできないワークショップを考えていくうちに、無垢の木でできたパーツを組み合わせてつくる小さなクリスマスツリーなど、恒例のものが定着していきました。クリスマスツリーは、木目や色が異なる2つの樹種のパーツがあって、それを自由に選んで組み合わせを考えながらつくってもらいます。

毎年人気のある、無垢の木でつくるクリスマスツリーづくりのワークショップ。

宇都宮 :
「こうぼうのおんがく」というワークショップは、音楽家の宮内優里さんが、工房で家具をつくる作業の音をひろって、それで音楽をつくっていくというものですよね。

藤本 :
「こうぼうのおんがく」も人気のあるワークショップで、何度かやっているのですが、基本的には楽器づくりのワークショップと工房でのライブが中心になっています。僕たちもライブで楽器をつくることに挑戦し、つくっている作業の音をサンプリングしてもらい、最後に完成した楽器を演奏して音を重ねるといったこともやっています。

宇都宮 :
とても有機的というか、そのときその場所でしかつくれないものが体験できるワークショップですね。

地下の工房で行われる音楽のワークショップ「こうぼうのおんがく」。

動画はこちら :

藤本 :
何をつくるにしても、皆が同じものをつくるのではなく、その人の感性を活かしたオリジナルのものができるように考えています。ワークショップは工房でやりますから、もしもその場で参加者からリクエストがあれば、可能な範囲で職人が対応したりすることも。そんなことを積み重ねていくことで、家具をつくるときにも、自分で使い方を考えてオーダーしてくれる顧客が増えてきているように思います。

宇都宮 :
「WOODWORK」の家具は、厚みや奥行きといったベースとしてのフォーマットはあるけど、一人ひとりのニーズに応じて、オーダーを受けて形を変えたりオプションを加えていくというつくり方ですよね。

藤本 :
そのほうがお客さまもどんな家具を必要としているか考えやすいし、僕たちも形をつくっていきやすいんです。

使い手とつくり手のコミュニケーションから生まれる家具の数々が店内に並ぶ。

宇都宮 :
そのスタイルを極めているのが「FACTORY RACK」だと思います。「FACTORY RACK」は、ラーチ合板をスチールの金具でジョイントして組み上げますが、サイズや使い方などの自由度が高いし、市販のパーツを取り付けたりできる楽しさもあります。そもそも「FACTORY RACK」は、工房で使っている多目的なラックから生まれたんですよね?

地下の工房で、実際に職人さんが使っている棚からアイデアが生まれた「FACTORY RACK」。

藤本 :
工房で使いやすいラックってどんなものだろうといろいろ考えていて、簡単に組み立てられて、後からジョイントできるとか、必要に応じてビスや金物を打っていけるとか、使い勝手を優先して考えていったら、ラーチ合板とL型の金具でつくっていくという「FACTORY RACK」の原形のようなものができて、それを実際に工房で使って、形などを詰めていきました。

FACTORY RACKの原形であり、現在も工房で使われている収納棚。
こちらも工房で使われている収納棚。スピーカーや鉛筆削り、カタログ、救急箱など日常使いするもの達を無造作に収納。
側面に木片を打ち付けて、上着などを引っ掛けるコートハンガーに。
背面の板にビスや棚をつけて、材料を置いたり引っ掛けたりアレンジもしている。

宇都宮 :
一般的に家具は完成したものを購入して、できるだけそのままの状態でキープしたいと思うものですが、「FACTORY RACK」は、使う人のアイデア次第でいろいろなカスタムが可能だし、色を塗ったり、付け足したり、組み替えたりすることもできる。使いながらアレンジしていけるのがいいなと思いました。その考え方は、HOWS Renovationが手掛ける家とも共通するものですから、「FACTORY RACK」で住まい方の一例を提案することで、良さを補完し合いながら、コンセプトを伝えていきたいと思ったんです。「石神井台の家」では1.5階の吹き抜けの空間に、「FACTORY RACK」を展開したような形で家具をつくってもらいましたね。

「石神井台の家」では、FACTORY RACKを応用して、壁面棚を造作。本棚やテレビ台、飾り棚など、多目的な使い方ができる。

藤本 :
「FACTORY RACK」は何でもできるというのが良さですから、本当にアイデア次第なんですよね。今回の「石神井台の家」に置いてある家具をつくるときも、さらなる使い方を考えていく機会になりました。ホームセンターでパーツを探してきたり、市販のものと組み合わせてみたり、引き出しや戸板を付けるなど、考えていくと何を付けても面白いんだなと感じます。それを使う人にも感じて欲しい。「面白いパーツがあったら付けてみようかな?」と思ってもらえる人を増やしていきたんです。

店舗に置かれているFACTORY RACK。キッチンの食器棚にもなりそう。
棚の一部に扉と引き出しをつけた例。
タイヤをつけて可動式に。土間やテラスでの作業に重宝しそう。

Text:村田 保子

 

「WOODWORK」
http://woodwork.co.jp

「AIDAHO」
http://aidaho.jp/profile/

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