レポート

「郊外の戸建て暮らしのこれから」 Scene.2:長い階段や旗竿地が、みんなが喜ぶ価値になる

「郊外の戸建て暮らしのこれから」 Scene.2:長い階段や旗竿地が、みんなが喜ぶ価値になる

HOWS Renovationが手掛ける「横浜荏田北の家Ⅰ」が竣工しました。東急田園都市線の市が尾駅のほど近く。約40段の階段を上った先にあるのは、三角形の広い敷地にゆったりと建つ鉄骨造の2階建て。今回はリノベーションの設計を担当した「ブルースタジオ」の石井健さんとともに、竣工間もないこの家を訪ねます。
お付き合いいただいたのは、東京と南房総の二拠点生活を実践する建築ライターの馬場未織さん。お二人に空間を体験してもらいながら、この家に住むことのポテンシャル、郊外の戸建て暮らしの可能性などについて、語り合っていただきました。

※前編はこちら
Scene.1 家の中にエンターテインメントがある暮らし

profile.


石井健 Takeshi Ishii
1969年 福岡県生まれ。ブルースタジオ執行役員、建築家、不動産コンサルタント。日本のリノベーション・シーンの黎明期から多数のリノベーションを手掛けてきた。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。


馬場未織 Miori Baba
1973年東京都生まれ。建築ライター、NPO法人南房総リパブリック理事長。建築設計事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より夫と3人の子どもとともに、東京と南房総市の二地域居住を実践。2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。親と子が里山で自然体験学習をする「里山学校」、南房総市の空き家調査、廃公共施設の活用などを手掛ける。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。 

家から外へ、暮らしを滲み出させる楽しみ

石井 家の中にエンターテインメントをつくって楽しむ郊外の暮らし方は、どうやってそれを外に滲み出させるかを考える面白さもあると思います。
例えば、家の軒先を町に貸すことが一般的になると、町も変わりますよね。買い物が不便な地域なら、ネットや車を使えない高齢者のために、庭先を使って食料品や日用品のミニ販売所をつくるとかね。もっと簡単な例だと、ご近所や友人に声をかけて敷地内でフリーマーケットをするとか、できることから始めてもいい。マイクロコミュニティ内のマイクロビジネスなら実現できることはたくさんあると思うんです。

馬場 パブリックとプライベートは敷地境界で分かれるのがセキュリティの考え方ですよね。でもこの家は境界の曖昧さがあります。外の長い階段の途中くらいまでなら知らない人がいても「まぁ、いいか〜」と思えるくらいパブリック感がありますよね。

石井 ミニ公開空地だね。多くの家が「寛容ゾーン」みたいなものをつくるといいんですよ。

馬場 例えば擁壁がある家なら、擁壁面もパブリックと接しているところだから、そこでも何かできるかもしれない。一歩外へ目線を向けることでできることはたくさんありそうですね。
家の開き方は、子育ての質も変えると感じます。家が厳密なシェルターだと、親の責任範囲の線引きも厳密になり、「ここは私の守るところ」「ここ以外は守れないところ」と、セキュリティ意識ばかり高まります。この境界が緩いと、子どもは外からの流入も外への流出も拒まない体質になります。南房総だと3軒先、といっても300mくらいありますが(笑)、その辺りまで自分の家みたいな感覚。子どもたちは、うちをよく知る近所の人の畑も、自分の家という感じに思っています。

 

石井 昔は塀から出ているビワの実は取ってもいい、とか暗黙の地域ルールがあって、その境界線上で人と人とのコミュニケーションが生まれたりしました。軒先をどう使うかで、パブリックと関係性が生まれて、コミュニティも発達していくことにつながりますね。 

馬場 私がこの家に住んで、暮らしが外に滲み出すとしたら、子どもたちが下校途中に集まるような、私設学童のような場所になるのが理想かな。昔は我が家と学校の間に、なぜか寄ってしまう居心地のいい家ってありましたよね。それも名前を付けたり、機能や責任を明確にしたりせず、自然発生的にゆるやかに滲み出すといいな。この階段は、子どもにとってはすごいエンターテインメントです。いろいろな遊び方をして、ケガすることもあるかもしれないけど、懲りずに遊んで、それが許される場所。そんな場所が一つではなく、点在していくとこのエリアの風景も変わるし、小学生の楽しみ方も変わる。うちの子どもも鋭い嗅覚があって、気持ちのいい家を選んでたむろしているんですよね。そういう家が通学路のあちこちにあれば、子どもの頃からエリアに愛着をもって暮らすことができます。結婚した後もそこに住みたいねって、気持ちになっていくと思うんです。こういう家がきっかけになって、子どもたちの20年後を見据えた時に、楽しい思い出がたくさん残るエリアになるといいなと思います。 

 

旗竿地や長い階段は、自由に使えるキャンプグラウンドのような価値がある

石井 今後の日本の人口分布、地域格差など社会的な背景を考えると、多くの地域でこれからは家をどうにかするためには、仕事、子育て、介護、縮小していく駅前の環境をどうするのか、そういったことをセットにして考えなければいけない。少し前に、郊外に住む高齢者が家を売って都心に移り、空いた家を若者が買うという取り組みがありましたが、家だけきれいにリフォームし、耐震性もクリアしても若者は郊外に移らなかったんですね。 

馬場 コストパフォーマンスと手に入れる価値を考えた時に、あの広さよりこの近さになってしまうんですよね。

石井 なんといっても楽しくないよね。それは周辺の問題でもあるんだけど、不便とかと遠いなどのネガティブ要素よりも、たとえば家に釣り堀がつくれるというポテンシャルが勝ることがあってもいいんじゃないかと思います。そういう発想の人が増えれば、旗竿地とか長い階段といった不動産的には価値が低いと言われがちなものが、無料で手に入るキャンプグラウンドみたいなものに見えてくるんじゃないかと。

馬場 ちょっと見方を変えれば、外の長い階段は、敷地内にデートスポットがあるようなもの。もしも娘さんがいて、中高生なら彼氏に家まで送ってもらった場面で、門の前の段差に二人で腰掛けて長時間話し込んじゃうような。離れられなくて帰れない二人の世界が繰り広げられるなんて素敵じゃないですか。私だったら二人のためにパーティションを設置してあげるかもしれない。そういった今までだったら価値を見出されなかった家の余白の部分にこそ、ドラマって生まれるんですよね。 

石井 この家って「?」がいっぱいありますよね? 30年前にこの家ができた時は「なんでこんな建て方したんだ?」と思われていたかもしれない。でも、今なら「?」の部分が価値になると思うんです。この物件の話を聞いた瞬間に、階段が40段あって、三角形の敷地に四角い建物が建っていると聞いた時点で、「これはっ!」ってワクワクしましたもん。階段は高齢者には不向きかもしれませんが、老後はリフトを設置するという手もありますよ。

馬場 楽しそう。今からでも乗りたいですよ(笑)。基本的に暮らしはすべてエンターテインメントになるんですよね。 

石井 今までは旗竿地を買うということは、ちょっと損した気分になる感じだったけど、旗竿地や40段の階段がルーフバルコニーみたいに、みんなが喜ぶポイントになって不動産的な価値が逆転するようなことも、今後起きるんじゃないかと感じています。

馬場 価値がないという目でみればそうなってしまうけど、眼の曇りをとれば、価値が見えてくるということでしょうね。30年前の人にとっては価値のないものが、目線を変えることで価値が上がって魅力的に見える。ということは価値がないと捨てられたものの中に、たくさんの宝があるということです。それを宝として見る目をもつ人が増えていったら、とても楽しい世界になると思います。 

 

働き方の変化とともに、会社員も郊外暮らしができる社会に

石井 AIやロボットの登場で、人間は人間にしかできない、クリエイティブな仕事、心や誠意が必要なサービスをやるようになっていくと思います。すでにリモートワークなども増えつつありますが、人の働き方も大きく変わっていくでしょう。発想の仕方もどんどん変わり、多くの人が「自分の家を楽しくしたほうがいいじゃん」となれば、昔は絶対住むものかと思っていた人にとっても、郊外はいろいろなチャンスに溢れている環境に変貌していくと思います。

馬場 人生の価値軸が変わってきていますよね。合理性とか数字で表せるスペックじゃないところに価値を見出し、「そっちのほうが面白い」って正面切って言えて、正々堂々と楽しめるようになってきた。私たち家族が12〜13年前に田舎暮らしのために土地探しを始めたときは、路線価もつかないような土地に家を持つなんて考えられないとか、両立できっこないとか、出世に影響するとか、一方向の価値軸で批判されることがありました。それが今は普通に語れる。逆に興味をもってもらえるようになったことに大きな変化を感じています。
今後は、自分の手仕事があって移動できるクリエイターだけじゃなく、会社員も田舎や郊外暮らし、二拠点居住を抵抗なくできるようになるといいと思います。働き方の変化も必要ですけど、会社からデメリットとして取られるのではなく、社会を立体的に見られる機会と認めてもらえるといいなと。通勤距離が短いことだけがメリットではなく、プライベートの豊かさや多様な価値観などが認められるようになったら、楽しい世の中になると思います。

石井 まだまだ環境は追いついていないかもしれませんが、確実にそちらの方向に行っていますから。

馬場 都市か田舎の二択じゃなくて、都心に近い郊外は、40〜50代の世代にはまた違った意味で魅力的な面もあると思います。私の夫は町田市のすずかけ台で育ちました。私にはすずかけ台の街並みは一般的な郊外に見えますが、夫からみると子ども時代を過ごした懐かしくて気持ちのいい風景なんです。そういう記憶のある人たちが、また回帰していく場所になっていく可能性もあると思います。南房総のような田舎で暮らしたいというニーズと同じように、郊外の価値が今までと全く違う脚光の浴び方をするようになるかもしれません。 

 

Text:村田保子  Photo:古末拓也、一部 馬場様提供

 

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青葉おうちマルシェ ~ HOWS家びらき ~
2017年8月26日(土) 10:00~17:00
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