暮らしながら付け足せる家具と家02
リビタのHOWS Renovationが手掛ける「石神井台の家」が竣工しました。1階と2階の間にある1.5階のスペースにスリット状の開口を設け、家全体につながりと光が生み出された空間は、さまざまな暮らしのシーンをイメージさせます。空間の使い方をより具体的に見せてくれているのは、「WOODWORK(ウッドワーク)」の「FACTORY RACK(ファクトリーラック)」という、合板を金具でジョイントした家具。「石神井台の家」をともにつくり上げた、設計事務所「AIDAHO(アイダホ)」の長沼和宏さんと澤田淳さん、「WOODWORK(ウッドワーク)」の藤本雅也さんにお話をお聞きしました。
1979年東京都生まれ。2012年に澤田淳と共に株式会社AIDAHOを設立。枠にとらわれない発想と感覚を大切にし、小さな事象からデザインを構築するスタイルを得意とする。AIDAHOのムードメーカー。 (http://aidaho.jp/)
1980年千葉県生まれ。2012年に長沼和宏と共に株式会社AIDAHOを設立。周辺環境や与条件からポイントを読み取り、全体から細部へとフォーカスしていく設計スタイルを得意とする。AIDAHOのまとめ役。 (http://aidaho.jp/)
リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。商業施設の内装設計を経て住宅の分野へ。現在はプロジェクトの企画から建築ディレクションを担当。 (http://hows-renovation.com/)
Scene.2:後から発見するたくさんの「あいだ」
宇都宮 :
「石神井台の家」は、「AIDAHO(アイダホ)」の長沼和宏さん、澤田淳さんに設計をしていただきました。「WOODWORK」も「AIDAHO」からの紹介で「石神井台の家」に参加してもらったわけですが、「WOODWORK」とは以前から一緒に仕事をしていたのですか?
長沼 :
藤本君とは10年以上前から知り合いで、昔からよく「WOODWORK」に通っていて、工房を使わせてもらっていたんです。本格的に一緒に仕事をし始めたのは1年くらい前で、千葉県にある「Cafe-craftsman Base(カフェ・クラフツマン・ベース)」というパン屋さんの内装を一緒に手掛けたのが最初です。ちょうど「WOODWORK」が「FACTORY RACK」をつくりはじめている時期だったのですが、僕としては「WOODWORK」が合板を使っていることが新鮮でした。
長沼 :
「WOODWORK」が合板で家具をつくると、そのすごさが分かるんです。きちんとした技術で合板を扱うと、こんなにカッコよく仕上がるんだと驚きました。無垢材だと材料の良さに目がいってしまうのですが、合板だと技術が浮き立って見えてくるというか……。それで「Cafe-craftsman Base」の壁を合板でつくってもらうことにしました。「FACTORY RACK」のような概念で、壁と家具の中間のようなイメージでつくって欲しいと思ったんです。
澤田 :
完成した壁は、600mm×300mmにカットした合板をタイルのように張ったもので、目地は空けたままにして、そこに棚板を差し込んでパンを陳列できるようになっています。
宇都宮 :
ものづくりのスケールでいうと、建築家が見ているスケール感と家具職人が見ているスケール感って違うと思うんですね。視点の違う人たちが一緒に空間をつくったすごく面白い事例ですね。
宇都宮 :
「AIDAHO」のことについてもお聞きしたいのですが、「AIDAHO」という名前には、どんな意味が込められているんですか?
澤田 :
なにかとなにかの「あいだ」を考えていきたいという思いがあって、「あいだ」をキーワードに名前を考えていたのですが、全然決まらなくて半年くらい悩んでいたんです。友人から「そんなに“あいだ”にこだわっているならアイダホ企画でいいんじゃない?」と駄洒落のような感覚で言われて、それが採用になりました。
長沼 :
なんだかしっくりきていいなと思ったんですよね。「ホ」がなんなのか良く分からないですけど、「AIDAHO」という名前で活動しているうちに、意外と「ホ」は周囲の人が見つけてきてくれることが分かりました。
澤田 :
ロゴをデザインしてくれた人は、「AIDAHO」の「H」を他の文字より横長に延ばして、「間(ま)」を表現してくれているんです。その人は「ホ」を「間」と解釈したんですね。ちょっと抜けがあるというか、カッコよすぎる感じではないのがいいかなと思っています。
AIDAHO WEBサイト :
宇都宮 :
「石神井台の家」もいろいろな「あいだ」がある空間になっていると思いますが、プロジェクトごとに「あいだ」を考えるという設計理念を意識したり、それを表現するために軌道修正したりするんですか?
澤田 :
それはないです。「あいだ」ってすごくざっくりしていて、いろいろなものに置き換わっていくので、意識して考えることはないですね。後から振り返ってみると「AIDAHO」としての理念が、どこかで表現できているというのはあります。
長沼 :
写真を見返したりすると、ここが「あいだ」だったのかなとよく考えますね。やっているときは一生懸命だから、そういうことは考えない。後で認識して、それを蓄積していって、次に活かしていくというやり方なのかもしれないですね。
宇都宮 :
後から言語化したときに、一見「あいだ」とは関係ないものを「あいだ」としてとらえていたんだと、発見することになるのは、すごくいいなと思いました。それを積み重ねていくことで「AIDAHO」らしさが出ているんじゃないでしょうか。
澤田 :
狙ってできていないというか、まとめるのが後回しになっているということですね(笑)。
宇都宮 :
「あいだ」という意味では、媒介的なポジションというニュアンスもありますよね。
長沼 :
人と人とを紹介するのがすごく好きなんです(笑)。こことここは絶対相性がいいなというのはよく感じるので、それに気づいたら紹介してしまうというか。
澤田 :
「石神井台の家」でリビタのプロジェクトに参加させていただいたことも、たくさんの人と関わる機会になり、今までの自分たちの仕事の仕方とは全く違う視点がもてて、すごく面白かったです。
宇都宮 :
HOWS Renovationで設計してもらう家は、施主が決まっていないので、普段のプロジェクトとだいぶ違いますよね。さらに、つくり込まず余白を残すというコンセプトがありますから、なにをつくって、なにをつくらないかということを考えるのが難しいと思いますが、その辺りはどうでしたか?
澤田 :
一定の床面積を確保しながら、建物の魅力を引き出すことが難しかったですね。やっている最中は大変なことも多いと感じていたのですが、最後までやってみると苦労が多かった分良いものができたと感じています。住む人が決まっていないということは、決まった要望がないということ。住む人を想定してしまうと、限定した部屋やスペースのつくり方になってしまうので、壁をつくればこういう使い方ができるとか、将来的な時間軸やいろいろな暮らし方を想定したつくり方を意識しました。
宇都宮 :
「石神井台の家」は2階建てですが、1.5階の中間層や、メインのLDKから一段下がった空間などがあり、4層のスキップフロアになっています。このプランはどのように導いたのですか?
澤田 :
「石神井台の家」は住宅街にあり、道路に接する面以外の三方向は家に囲まれていました。そのため、家の中で抜けをつくったり、広がりを感じさせたりという工夫を設け、空間に豊かさを生み出そうと考えました。天井が高く、1階と2階を分けてつくってしまうと、生活が分断された感じになってしまうため、できるだけつなげたかったのですが、吹き抜けにしてしまうと床面積が減ってしまう。そこで、抜いて光を落したい部分の床をスキップさせて、スリット状の開口をつくることにしました。それが中間層の1.5階です。
宇都宮 :
LDKの隣の一段下がった空間は、少し天井が低くなっていてこもり感があり、本能的に落ち着くような居心地の良さを感じます。ここは書斎などにも良さそうですね。1.5階の中間層は、具体的にはどんな使い方を想定していますか?
澤田 :
1.5階は通過動線にもなっていて、1階からも2階からも見える場所なので、家族が共有できるスペースが機能しやすいと思います。ライブラリーや趣味のスペースなどでしょうか。家の中だけどサンルームやインナーバルコニーのように、半屋外的に使うのもいいですね。「FACTORY RACK」に植物をたくさん飾って、それが上下階から見えると気持ちの良い空間になりそうです。この家にはリビング的に使える空間が複数あるのですが、2階のオープンスペースもその一つ。そこと一体化させて、シアタースペースのように使うこともできますね。
宇都宮 :
2階のオープンスペースは、広くて日当たりが良くて、LDKのとなりの一段下がった空間とはまた違った居心地の良さがあります。
澤田 :
大工さんは2階のオープンスペースが一番好きだといっていました。その奥には個室が2つあるので、お子さまが2人いる場合は、個室を子ども室に使って、オープンスペースを主寝室にするといいのではないでしょうか。家で仕事をする方なら、オープンスペースをワークルームにして、1.5階はライブラリーに。下りていくと生活のスペースといった感じのグラデーションのある暮らし方もイメージしやすいですね。
宇都宮 :
「石神井台の家」は余白がたくさんあって、いろいろな使い方ができることに加え、光の入り方やスリット状の開口の抜け、天井の低い空間、開放的な広い空間など、家の中に普遍的な価値がたくさん点在していますよね。「AIDAHO」が設計を手掛けることで、そういった後から見つかる良さがたくさんプロットされた家になったのではないでしょうか。それが今回の「あいだ」ですね。きっと住みながらも、新しい価値を発見し続けられる家になると感じています。