ヒント

建具でアジャストする暮らし

建具でアジャストする暮らし

©Nao Takahashi

日本の家は「夏を旨とすべし」と言われ、冬は何とでも対応できるから夏の日差しを遮り、通風を良くする計画がなされていました。しかし、もはや近年の日本の環境では夏は耐え難い暑さによりエアコンで室内を冷やすことは必須です。

築32年の『鷺宮の家』では、これからの日本の住宅での暮らしはどのようなことが求められて、それをどのように解決しながら楽しめるかを考えて計画していきました。

テーマとなったのは「建具」です。

建具について3つの視点で考えてみたいと思います。

エネルギーを包む「建具」

「夏を旨とすべし」。要は、風通しを良くすることで暑さをコントロールするということです。つまり、ここでは建具は開け放たれて不要な存在であるはずです。逆に冬は火鉢の熱や、人間の発熱により生まれたエネルギーを外に出さないことが求められます。ここで建具、この場合「襖」がエネルギーを包み込む能力を発揮します。

これを現代の住宅に置き換えると、夏も通風ではなくエアコンによる冷気で温度を整えます。冷気のエネルギーも外に逃げないように、要するに外の影響を受けにくいようにする必要があります。

冬も夏も機械によって温熱環境を調整する現代では「建具」が活躍できる場面が増えていると思います。

プライベートを守る「建具」

かつての日本の家は空間が建具によって分けたり繋げたりしていました。建具によって家の中でのプライバシーを調整していたんだと思います。一方、外からのプライバシーは門や塀、生垣など、何重にも目隠しとなる層があって守られていました。

現代の、特に都心の住宅は、ひしめき合って建っており、道路との距離も十分にとられていないことがほとんどです。このような状態なので、窓にカーテンを取り付けて外から中が見えないようして過ごします。

「建具」とデザイン

昔の建具にはさまざまな種類、デザインがあります。用途によって、「襖(ふすま)」や「簀戸(すど)」、「格子戸」、「障子」などがあり、それぞれにも時代、地域などによって独自の意匠が存在します。こうした建具は伝統的な日本の住宅のデザインの一部として認識され、評価されていると思います。

©Nao Takahashi

鷺宮の改修

このような3つの視点で建具を考えて、改修計画に取り入れようと思いました。それぞれの役割が1つの答えになれば、暮らしと環境の調節を自然に行うことができると考えました。

中野区のある住宅街の南東角地。周辺の住宅よりも立地としては優れていますが、やはり前面道路との距離は近く、プライベートとパブリックの境目のデザインが重要となります。また築32年の建物であり、建築当時の窓は熱還流率が高く、(エネルギーの出入りが多い)このままでは夏は暑く、冬が寒い住宅となってしまいます。

建物立地、古い開口部を好転させるアイデアが必要です。

計画を考える中で「障子」というキーワードが出てきました。縁側に面する障子を閉めることで外からの目線を避け、外の寒さを遮るシーンを誰しも体験したこと、見たことがあると思います。今回の計画では、すべての開口部に膜を張るように障子を取り付け、住宅の一部としてデザインしました。住宅のデザインと合わせて障子を作ることで、エネルギー、プライバシー、デザインの3点を成立させようとしました。

©Nao Takahashi

建具のデザイン

デザインするにあたっては、閉じたときの室内の明るさ、熱エネルギーを閉じ込める力、建具だけが目立つことのない見え方が重要だと考えました。以上のような、整理のもと鷺宮の家の意匠設計を依頼した能作淳平さんと建具の設計を依頼した藤田雄介さんと共に進めていきました。

発想のスタートは障子でしたが、完成したもののイメージは襖。エネルギーを逃がさないよう、建具に懐(ふところ・空気の層)を設けるために、両面に布を張ることにしました。両面の布の組み合わせを光の透過具合で決め、表はカラーシーチングという厚めの布、裏はカラーガーゼという薄目の布としました。両方とも生地屋さんで500円/m程度で購入できるものです。また、張り替えができるように建具の四方枠はビスで取り外すことができ、洗濯と張り替えができるようにしています。

©Nao Takahashi

また、小窓バージョンはシンプルに1枚の布を張っています。この程度の大きさであれば、例えばファブリックボードのように好きなデザインのテキスタイルを張り替えるのも素敵だとおもいます。

©Nao Takahashi

また1階の南面の取付位置は、窓から距離を取って取り付けています。この間の空間は縁側のような、サンルームのような環境になります。例えば室内はエアコンで空調して人間の快適な環境を整えつつ、縁側はエアコンの影響を受けない、外の環境に近づけることで植物に適した環境と分けることができるのです。

そして、夜になると、布の襖で覆われたこの家はまるで行灯の中にいるような不思議な雰囲気で包まれ都会から切り離された自分たちだけの空間と変化します。

©Nao Takahashi

暮らしと建具

鷺宮の建具は住みはじめることで魅力が増すと考えます。1階の建具は開閉により町と住宅の関係を調節することができます。たとえば、家を半分事務所とする人、お客さんをたくさん招く人にとっては開け放つことで町との距離を近づけることができるのではないでしょうか?

また、住みだして数年経てば張っている布の色や柄を変えたくなるかもしれません。襖紙を変えるようにテキスタイルを自分好みにあしらうこと。空間の雰囲気をがらりと変えるテキスタイルの力で気持ちのリノベーションができるかもしれません。

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