レポート

テキスタイルの技術と可能性/pole-pole インタビュー(後半)

テキスタイルの技術と可能性/pole-pole インタビュー(後半)

テキスタイルデザイン事務所、pole-poleさんのインタビュー後半。
ここからはテキスタイルの技術と可能性についてお話を伺いました。

前半はコチラ 「テキスタイルのLAB / pole-pole インタビュー(前半)」

テキスタイルの技術と産業

上野:
一般のユーザーとpole-poleの関わり方もありますが、同業者の人とこの場所の関わり方はどうですか?

シミズダニ:
テキスタイルの業界自体が割と狭いので、興味を持ってきてくれる人は多いですね。

上野:
織りや編み、プリント、レースなど技術の分野が変わったらどれくらい世界が変わるんですか?野球でいうポジションが変わる程度なのか、そもそもサッカーに変わってしまうくらいなのか。

シミズダニ:
織物や編物は糸が1本変わるだけでまったく別物のテキスタイルになります。しかも同じ条件で依頼しても工場が変わると工場の特色が出てくるのでテキスタイルの見え方や風合いなども変わってきます。そういった意味で技術の組み合わせは無限。面白い点ではありますが奥深くて経験がものをいう難しい世界ですね。

上野:
技術が細かい中で業界内でその共有って促進されているのでしょうか。それとも各々で保護されていたりするんでしょうか?

シミズダニ:
昔は保護されていたんでしょうけど、最近は変わってきているように感じています。工場の見学をさせてくれたり、小ロットで対応してくれる工場も増えてきました。織物などは数百、数千メーターという単位でないと発注できなかったものが、最近は数十メーター単位で対応してくれる工場もあります。昔だと考えられないですね。

宇都宮:
廃業している工場も多い中で小ロット対応できるところが残っている感じですか?

シミズダニ:
大きな規模でやられていた工場も廃業されていますね。東京だと、八王子が繊維産業が盛んだったのですが大きいところから廃業されていったと聞いています。

宇都宮:
産業が縮退していくときに、そのままなくなるか、領域を拡張して別産業と協働して生き残るかというのがあると思うのですが、そういった意味でテキスタイルデザイナーとしての職能をどこに伸ばしていこうと考えていますか?

例えば荻窪の家だと住空間の中でテキスタイルがどういう存在であるかの議論は建築家と同じかそれ以上に能力を発揮できる部分があると思います。場合によってはものとしてのアウトプットではなくプランナーやコンサルタントとしての職能ができると既存の産業を繋いでいくこともできるのかなと。

近藤:
日本は職人さんの知識がすごいと思います。同じ機械でも動かす人の技術と知識で仕上がりが変わってくる。人ができる技術力の調整が大切で、工場の温度とかで織り機のスピードを調整するとか。それはずっと重宝されると思います。そのうえでデザイナーはそれを一番理解して、展開力のある人が求められると思います。柄と向き合うデザイナーではなく素材と向き合うデザイナーにはその力が大切だと思います。

宇都宮:
他領域から見るとそこにすごく期待しています。パターンだけの話だと、極論としては、孫が書いた柄がおばあちゃんにとっては最高になると思う。そういった意味でデザイナーは不要な場面もあるけど、それを具現化するためにはその職能が必要になってくるのではと。

近藤:
素材を生み出すというよりも、適切なものを組み合わせるのが大切で、ジャガード織機でも工場によって全然違いますからね。知れば知るほど奥深いです。

宇都宮:
その感じの見え方で出来たらおもしろいですね。素材のことを聞きに行くラボがここにあったらいいですね。直接工場にはなかなか行けないし。

近藤:
僕たちの強みはデザインができること。まだまだですが知識と提案ができる、そういった状態をもっと強くしていきたい。

シミズダニ:
ディープなお付き合いをさせてもらっている工場も幾つかあるので適切な知識をつけてその幅を広げていきたいですね。

荻窪の家でのプロジェクト

上野:
ちょっと話を変えて、昨年一緒に取り組んだ荻窪の家でのプロジェクトについて聞いてみます。さっきの話で3人で1つのプロジェクトを取り組む中で今回の割合的にはどうでしたか?

シミズダニ:
これまで空間に対する仕事の経験が多い近藤が中心となって進めました。柄のデザインは自分が担当しましたが、”soft space”というメインコンセプトなどは近藤が作っていきました。色などは3人で考え、その中からミントグリーンが採用されました。もう1つの色を使わずにオパール加工のみ施したデザインは3人で考える中から生まれたアイデアですね。

上野:
できあがった2つのパターンはデザインとしてもだし、※オパール加工のテクニックなども僕等は分からないなかで、その制作プロセスを共有しながら、あの加工だからこそあのパターンが成り立つというのがいいですね。(※織物に透かし模様を付ける加工法。)

近藤:
そうですね、同じデザインでも使い方を変えることで、できあがるものはガラッと変わりましたね。それこそ技術を知っている強みが出ていると思います。

上野:
オパール加工を知らない人に説明しても、意外と理解してもらいやすいですね。空間に実際に設置してみてどう感じましたか?

シミズダニ:
荻窪の家のためにデザインしたテキスタイルだったので、バッチリはまったなと。その空間にあるべくしてあるなと。設置した時、現場の空気感が変わったのを感じました。テキスタイルには空間の関係性を変える力があると改めて気づきましたね。

近藤:
そうですね、奥の階段を上る形とリンクしているデザインで軽やかでいいなと思いましたね。もともとあの空間は地下じゃないのに少し地下感があったので、それが軽くなるように感じられたのでいいなと思いました。

上野:
家のどこに風が流れて、どこに光が当たっているのかって、なかなか自覚しづらいものですが、薄いテキスタイルがあることでそれが顕在化してくるのがいいなと思いました。

近藤:
そうですね、光と風を見えるようにできるんですよね。

上野:
一方で、間仕切りとしての機能としてはどうでしたでしょうか?カーテンでも仕切りでもない用途のないテキスタイルの使い方でもよかったのかな。

近藤:
意識が仕切られる程度のことでしょうね。

上野:
もっと小さい篭るような空間ができても居心地が良さそうですね。

テキスタイルの製作

宇都宮:
1枚の布を他のものに作り変えることをしていきたいですね。言葉としては言えるけど、具体的にはなんだろう、意外なもの買えないものを作れる面白さができればいいなと思いますね。それができれば、すごい覚悟を決めて作らなくても気楽に作ることができるのかなと。作ったものを消費するだけではなくて、転用することで価値を目減りさせないというか。

仮にそれを作ったものをどこかで売ったら、例えば10万円かけてテキスタイルを作っても最終的にはそれ以上の価値があったり。それが継続的に作れるきっかけになるかも。作った後のことも考えられるとテキスタイルは楽しみやすいような気がしています。オーダーで作ると高価なものなので。手にしたあとの、再流通の仕方を提案していく必要があるのかな?自分ごととして10,20万円かけて作るかと考えたら結構ハードル高いなと思いますね。でもそれで30万円分ぐらい遊べると大した額ではないと感じるかもしれないです。それで家を更新していくことを自分のためだけではなくて、子供のためとかも考えると結構やりたいと思いますね。適当にカーテンとか買ってしまうとかけているお金は少なくてももったいない気持ちになりますね。

上野:
それこそ、団地の中で同じ世代が集まって1つのテキスタイルを作ってシェアするとかはありそうですね。だんだんカーテンから幼稚園のバッグに転用されていったり。

宇都宮:
50mを5世帯でシェアするとかね。

上野:
昔団地住んでいた時も分けるみたいな感覚がありましたけどね。

宇都宮:
今回作ったものは我々もAIDAHOさんも初めてだったので、そのプロセスの経験をシェアしているので、次の発想が生まれてくるかも。と考えると、関心のない人に何をシェアするのかというのは重要な気がします。

上野:
金土日はLABがオープンしているんですよね?

シミズダニ:
そうですね、それ以外は事務所としてここで作業しています。土、日は週替わりで当番制にしていて、月末のワークショップイベントの時は3人とも居るようにしています。

宇都宮:
やりたい仕事の領域などはどうですか?

シミズダニ:
ホテルや公共施設などをやりたいですね。絨毯からカーテン、ベッドまわりなどテキスタイル全般を。

宇都宮:
絨毯もできるのですか?仕事の領域ってどこまであるんですか?

近藤:
絨毯もあるし、クッションカバー、ソファや椅子の張地、ラグなどもテキスタイルの領域ですね。

宇都宮:
床はいいですね。建築家と共同してつくるものとしてすごくいいですね。その空間ならではの提案ができるからやってみたいですね。生活の中でも重要なシーンになりますし。違う業界なのかと思っていました。

近藤:
産業的なテキスタイルや伝統的な染めなども大きく括ると同じ業界ですね。デザイナーだけでは生み出せないテキスタイルも職人さんと一緒なら生み出せるように、テキスタイルデザイナーだけでは想像しないテキスタイルの活かし方を建築家や他分野の方と生み出せたら楽しいと思います。


インタビューはここで終了。

最後に、

テキスタイルとはいわゆる布のことで、日常生活ではその用途に応じて、「服」、「カーテン」、「クッション」などそれぞれの言葉で認識されます。我々は「服」と「カーテン」を同じものとして意識していません。アウトプットされたものだけを意識して、その製作過程を知らないからだと感じました。pole-pole さんはテキスタイルのデザイナーとして幅広くテキスタイルの世界の素材と技術を学び続けるLABとして拡張しています。そこにはたくさんデザインされたサンプルがあるのではなく、見つけたい答えにたどり着くための方法のサンプルが集まっているように感じました。

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pole-pole

”新しいデザインではなく大切なデザイン”をコンセプトにフリーランスのテキスタイルデザイナー3人によって2017年に結成されたデザイン会社です。pole-poleとは『点と点をつなげること』経糸と緯糸がつらなり、織りあがっていく布地のように、何かと何かが結びつく中で生まれるコトやモノ、ヒトを大切にデザインしています。

『 pole-pole LAB 』

アトリエ、事務所、ショップ、たまにギャラリーになるスペースです。オリジナルの布地やアイテムの販売、ワークショップなども定期的に開催しています。pole-poleの布地をカーテンなどへの展開もこのLABで実際に布地を空間に吊ったものを見ながらご相談できます。

金、土、日曜日の13:00~18:00でオープンしています。
( 不定期なのでFacebookInstagramでスケジュールをご確認ください。)
東京都調布市西つつじケ丘4丁目23−35 号棟 神代団地商店街106 MAP

 

 

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