レポート

新しいタイルをつくる―地方産業と進めるものづくり@深沢の家・前半

新しいタイルをつくる―地方産業と進めるものづくり@深沢の家・前半

こんにちは。
戸建事業部のウエノです。

先日、「深沢の家」で、
設計していただいたAIDAHOさんとリビタの共催で内覧会を行いました。

当日の概要はコチラ

この日は愛知県常滑市を拠点に活動するデザイナーの高橋孝治さんをお呼びして
「新しいタイルをつくる―地方産業と進めるものづくり@深沢の家」
と題したトークイベントを行いました。
今回は当日の様子をお伝えしていきます。

この「新しいタイル」とは
高橋孝治さんとAIDAHO、そしてリビタでつくり、
この深沢の家で使った「やわらかいタイル」のことです。

そのプロセスは下の記事をご覧ください。
仕上げ材_タイル①_起源と役割編
仕上げ材_タイル②_「焼き物・土」としてのタイル
仕上げ材_タイル③_「やわらかいタイル」の発想

何が「新しく」、「やわらかい」のか。
高橋孝治さん、長沼和宏さん(株式会社AIDAHO)、宇都宮惇(株式会社リビタ)で
今回タイルづくりを通して目指したものと、これからのビジョンなどをディスカッションしました。

Speaker


高橋孝治 / Koji Takahashi
1980年大分県生まれ。2004年多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。
2005-2015年に株式会社良品計画の生活雑貨部企画デザイン室に所属し、無印良品のインハウスデザイナーとして、主に生活雑貨の企画・デザインを行う。2015年に愛知県常滑市に移住。常滑を拠点に企業や団体とプロジェクトを進行。2016年より常滑市陶業陶芸振興事業推進コーディネーター。2017年6月より、六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブディレクター。


AIDAHO / 株式会社AIDAHO  澤田 淳・長沼 和宏 
なにかとなにかの「あいだ」を考え、「あいだ」をつくる設計事務所。
過去事例:□ 石神井台の家


R
eBITA 宇都宮 惇
リビタの戸建てHOWS Renovation チーフディレクター。
商業施設の内装設計を経て住宅の分野へ。現在はプロジェクトの企画から建築ディレクションを担当。

まずは、リビタの宇都宮から「深沢の家」の概要を紹介。

宇都宮
この家は築33年の木造住宅を改修しました。
HOWS Renovationでは柱や梁などの構造材の状態が確認できるところまで既存の内装を解体するところから始まります。
内装解体後のスケルトン状態からAIDAHOさんと設計を進めていきました。

HOWSの改修では、いわゆる新建材と呼ばれる、品番がつく材料はなるべく使わないようにしています。
メーカー品だと廃番になってしまうと補修できなくなることが多いのが理由の一つです。
補修できずに放置されてしまうと、その部分がただただ劣化していき、住空間への愛着が薄れていくのではと考えています。


ですので、キレイに完成されたメンテナンスフリーなものではなく、
日頃の手入れが必要だけどいつの時代も手に入る普遍的な材料を使いたいと考えています。
今回、高橋さんにタイル作りを依頼したのもそういった考えからです。
メンテナンスフリーな「かたく」ツルッとしたものではなく、
食器と同じように日常的に触れ、それによって艶ムラが現れるような、
そんな「やわらかい」タイルを作りたいと思いました。

宇都宮からHOWSの家づくりの考え方、そして今回のタイルづくりの発想を紹介しました。
次に、今回の「やわらかいタイル」の開発を協働した高橋さんから
常滑のタイルの歴史をお話ししてくれました。

高橋:
常滑は平成末期から続く、日本六古窯の一つで昔から焼き物の産地です。
地名の由来は、土壌にあるのではと言われています。「常」は「床」、「滑」は「滑らか」の意味で、「床」とはつまり地盤のこと。古くから粘土層の露出が多く、それが「滑らか」なため「とこなめ」と呼び、地名として定着していったのだと言われています。

大正時代にはモダニズム建築の巨匠、フランクロイドライトの設計した
帝国ホテルのタイルやレンガを常滑で約400万枚生産しています。

常滑では、良く言えば時代の要請に合わせて
や招き猫、土管やタイルにすり鉢など
様々なものを作ってきました。
ある考古学者は節操がないと表現しましたが。

そんな様々作ってきたものの中に「急須」がありました。
江戸後期に、中国の宜興(ぎこう)から、紫砂(しさ)を用いた急須づくりの技術が伝わります。

常滑で、田土である朱泥を用いた急須づくりが本格化しました。
常滑の急須は炻器(せっき)で、釉薬をかけずに素地のまま焼き締めます。

ちなみに釉薬というのは、「うわぐすり」とも言われますが、焼き物の表面を覆う、焼くと溶けてガラス室になる素材のことです。
使う人にとって清潔感を保つだけでなく、作り手にとっても焼き物の素地の小さな傷を隠してくれる役割もあります。

常滑では「チャラ」という、キメの細かな土を極めて薄く吹き付けるお化粧で言う所のファンデーションのようなものを使いました。これをかけた急須の仕上がりは、かなり素地に近いものになります。
また釉薬は焼き物の底に塗ってしまうと焼く時に釜の中の棚板にくっついてしまいますが、チャラは全面に塗って焼いてもくっつきません。

今回は、そんな急須の「チャラ」の技法とタイルを掛け合わせて新しいタイルを作りました。

常滑には、焼き物の技術に基づく、衛生陶器やタイル、食器などの多様な産業があるのですが、実は産業間での連携はほとんどありません。
たまたま僕が、タイル屋さんと食器屋さんと繋がっていたので、急須とタイルの掛け合わせを思いつきました。
節操がないと言われ様々なものを作ってきた常滑ですが、それらの歴史、積み重ねがあるからこそのプロダクトになっているのではと思います。

ちょうどそんなことを考えていた頃、AIDAHOさんとリビタさんから声をかけてもらって、今回のプロジェクトへと発展しました。
近年、常滑のタイルも年々生産量が減ってきています。
そんななかでも、僕の他にも常滑焼を使った際立ったプロジェクトがあったりします。
今回のプロジェクトもそのような感じで、年に何回かそのような地域のポテンシャルを高めるようなプロジェクトができるといいのではないかと考えています。

約1時間ほど、高橋さんから常滑の焼き物の歴史、その上で思いついた今回の新しいタイルのお話しを聞かせていただきました。
後半はAIDAHOの長沼さん、リビタの宇都宮を交えて今回のプロジェクトの振り返り、これからのビジョンなどをディスカッションしました。

後半へ続く。
新しいタイルをつくる―地方産業と進めるものづくり@深沢の家・後半

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